吉川洋『高度成長 日本を変えた6000日』がえらい勉強になったのでメモ。
吉川洋『高度成長』は、その名のとおり高度成長期、具体的には1955年から1973年ごろに日本社会がいかに変容したのか、その変容はいかにして生じたのか、そしてそれは何を日本にもたらしたのか、そのようなことを平明に解説した概説書。著者は、高度成長期が日本社会にとってまさに時代を画するような変化をもたらしたのだ、と強く主張する。
今日われわれが、日本の経済・社会として了解するもの、あるいは現代日本人をとりまく基本的な生活パターンは、いずれも高度成長期に形づくられたのである。*1
目次はこんな感じ。
第1章 今や昔―高度成長直前の日本
第2章 テレビがきた!
第3章 技術革新と企業経営
第4章 民族大移動
第5章 高度成長のメカニズム
第6章 右と左
第7章 成長の光と影―寿命と公害
おわりに 経済成長とは何だろうか
吉川は「日本を代表するマクロ経済学者」*2だが、本書を一読した限りでは経済の本を読んだ、という感覚は薄くてむしろ歴史の本だったなという感じ。それは本書の取り扱う内容が、狭い範囲の経済に限定されていないから。その点、岩波新書のシリーズ日本近現代史の一冊、武田晴人『高度成長』のほうがより経済に力点が置かれていたかなという印象。
その扱う物事の多様さが本書の魅力であるというきがし、まずはじめに「三種の神器」によって人びとの生活が一変したさまを提示してみせるあたりに、まさに高度成長期が「現代」を創り上げたのだという著者の主張に強く納得させられてしまう。その後も技術革新によって石炭から石油へとエネルギーの比重が移り変わっていく、みたいな産業構造の変容を述べたのち、「民族大移動」、すなわち農村から都市への人口の大量流入が扱われるのだけれど、それによって、新型家電の普及以上に、日本社会の様相は変化する。すなわち、
高度成長が終わるころには、農業はもはや比較的マイナーな一産業となったのである。*3
高度成長は、農村から都市へという「民族大移動」を通して国の姿をすっかり変えた。それはまた有史以来の日本の農業を「地すべり」的な衰退へと追い込む過程でもあった。*4
というわけ。
そんなわけで高度成長期は日本社会の様相を一変させたわけだけれど、その高度経済成長の終わりは第一次オイル・ショックによってもたらされた、というのが人口に膾炙した見方なんじゃないかと思うわけです。いやおれがそう思ってただけなんですが。しかし著者はそれはちがうぜ、と。
第一次オイル・ショックはいわば「仕上げの一撃」として象徴的な意味はもつにしても、決して高度成長を終焉させた根本的な原因ではない。*5
高度成長を終わらせたのは、
- 農村からの人口移動が減速
- 耐久消費財が普及しそれ以上の需要の増加が見込めなくなった
であって、この2点こそ重要で、オイルショックがなくても遅かれ早かれGDPの伸びは鈍化する運命だったと。この説明はたしかになるほど納得という感じでありました。
というわけで疲れたのでこんな感じで。また後で書き足すかも。
本書と吉見俊哉『ポスト戦後社会』を読んだら戦後史のおおまかで、なおかつ多面的でもある見取り図が得られるのでは、なんていうふうに思ったので近々再読しようという気持ち。
5/22追記 再読しました。
高度成長期つながりで。