宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

2017年4月に読んだ本と近況

今年度の目標は、生き延びることです。

先月のはこちら。

2017年3月に読んだ本と近況 - 宇宙、日本、練馬

 印象に残った本

[映]アムリタ (メディアワークス文庫 の 1-1)
 

  特に印象に残っているのは野崎まど『[映] アムリタ』。野崎まど強化月間が開始されました。『正解するカド』もぼちぼちみましょうね。


 

読んだ本のまとめ

2017年4月の読書メーター
読んだ本の数:41冊
読んだページ数:10849ページ
ナイス数:294ナイス

 

木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか(上) (新潮文庫)
 

 

木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか(上) (新潮文庫)
 「木村の前に木村なく、木村の後に木村なし」と謳われた柔道家木村政彦の評伝。柔道界最強と言われた彼が、なぜ力道山に敗れたのか、なぜその復讐を行わなかったのかという謎をフックとして、木村政彦の生涯を辿っていく。劇画も真っ青の恐るべき木村の練習量と強さ、牛島辰熊との師弟愛と、あまりに対照的な両者の気質がもたらした帰結など、格闘技に興味がなくともめちゃくちゃおもしろく読ませるエピソードの取捨選択が見事。戦後講道館が覇権を握る以前は武徳会、高専柔道と三者鼎立の状況だった、というのは結構吃驚した。
読了日:04月02日 著者:増田 俊也
https://bookmeter.com/books/7962700

 

木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか(下) (新潮文庫)
 

 ■木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか(下) (新潮文庫)
 下巻では、ブラジルでのグレイシーとの対決を経て「昭和の巌流島」こと木村政彦力道山に至り、そしてその影を一生背負って生きた木村の人生の終わりまでが書かれる。本気でやれば力道山にも勝てたことを証明して木村を救おうとした著者の意思が、無数の事実の検証を通して木村を殺す、すなわち力道山木村政彦より強かったと証明してしまうくだりが本書全体のクライマックスで、事実とテクストをめぐる緊張関係、それのもたらす葛藤がそのまま書きつけられていると言う感があり異様な迫力。極めておもしろく読んだ。 

読了日:04月02日 著者:増田 俊也
https://bookmeter.com/books/7962697

 

運動会と日本近代 (青弓社ライブラリー)

運動会と日本近代 (青弓社ライブラリー)

 

 ■運動会と日本近代 (青弓社ライブラリー)
 運動会と近代日本との関係を問うた論集。全体としてはまとまりが薄いような感じがある。吉見俊哉「ネーションの儀礼としての運動会」がとりわけおもしろく、運動会は国家の規律訓練の装置としての機能を貫徹し得たわけではなく、祝祭的な雰囲気を帯びていったが、むしろそうすることによって国家的な時間感覚が人々を編成していく契機の一つだったのではと指摘する。『都市のドラマトゥルギー』的な語彙を使って分析を行う手際も見事。
読了日:04月03日 著者:吉見 俊哉,平田 宗史,入江 克己,白幡 洋三郎,木村 吉次,紙透 雅子
https://bookmeter.com/books/736181

 

別のしかたで:ツイッター哲学

別のしかたで:ツイッター哲学

 

 ■別のしかたで:ツイッター哲学
 Twitterの呟きを整理したやつなのでTwitterをスクロールしていくようにさらっと読めてしまうのだけど、さらっと読むなかに引っかかるポイントみたいなものがあって、その引っかかる感覚みたいなものがなんだか大事っぽい気がしてくる。それはともかくとして、50年後100年後の哲学者研究ってもしかしてTwitterのログ掘り返したりみたいなことをやったりとか、こういう書籍みたいな呟きを整理したやつが全集に入ったりするのですかね。想像するとおもしろいけど。
読了日:04月03日 著者:千葉 雅也
https://bookmeter.com/books/8137759

 

なぜ地理学が重要か

なぜ地理学が重要か

 

 ■なぜ地理学が重要か
 地理学が実際にどのように使えるのか、地理学を使って物事を捉えるとはいかなることなのかを具体的な例を引いて論じていく入門書。地図の利用から始まり、環境問題から対テロ戦争、拡大するヨーロッパ、中国の台頭など幅広い話題が扱われ、地理学という学問がいかに幅広い対象を取れるのか、そのポテンシャルを説明している。一方で、ISの台頭やヨーロッパの統合が怪しくなってきた現在の状況からするとはっきり言って時代遅れになりつつある記述も散見され、同時代の問題を学問的に論じる困難さを露呈してもいる気がする。
読了日:04月03日 著者:ハーム・ドゥ ブレイ
https://bookmeter.com/books/2625394

 

ブルデュー 闘う知識人 (講談社選書メチエ)

ブルデュー 闘う知識人 (講談社選書メチエ)

 

 ■ブルデュー 闘う知識人 (講談社選書メチエ)
 ブルデュー社会学についての本、というよりはブルデューという人間についての本という感じで、伝記的な記述に始まり、フランスの社会学界、哲学界のなかでどのような位置どりをしていたのか、またフーコーデリダなど同時代の大物知識人との関係はいかなるものだったのかという記述が厚い。最後の最後でブルデューの理論的な概念装置の説明もありますが、まあ基調となっているのは結構ゴシップ的な興味が満たされるような話題だったかなと。
読了日:04月04日 著者:加藤 晴久
https://bookmeter.com/books/9835406

 

誰も調べなかった日本文化史: 土下座・先生・牛・全裸 (ちくま文庫)

誰も調べなかった日本文化史: 土下座・先生・牛・全裸 (ちくま文庫)

 

 ■誰も調べなかった日本文化史: 土下座・先生・牛・全裸 (ちくま文庫)
 土下座はいつから定着したのか、議員をなぜ「先生」と呼ぶのか、牛乳の殺菌法をめぐる議論はいつ決着したのかなどなど、日常の瑣末な事柄の起源を探る。その資料は主に過去の新聞記事で、語り口はともかくとして極めて手堅いし読み物としてもすらすら読ませる。牛乳の風味が殺菌方法で変わるっていうのは恥ずかしながら初めて知って、学校給食の影響力ってのな侮りがたいなと。
読了日:04月05日 著者:パオロ マッツァリーノ
https://bookmeter.com/books/8288433

 

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

 

 ■夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)
 映画を見る前に再読。現実と幻想とか溶け合い混ざり合う幻想世界として京都を描くその筆致はやはり魅力的で、その奇妙な浮遊感はこの『夜は短し〜』が森見作品のなかでも頭ひとつ飛び抜けて極まってる感がある。四つの挿話から成る構成は小説としては楽しく読んだのだが、これを一つの映画にまとめるってどういう構成にするんだろうかというのがやっぱり気になる。

 映画版もすんばらしかったです。

読了日:04月06日 著者:森見 登美彦
https://bookmeter.com/books/578893

 

発掘捏造 (新潮文庫)

発掘捏造 (新潮文庫)

 

 ■発掘捏造 (新潮文庫)
 旧石器捏造事件を暴いた新聞記者の取材と、その後の反響についてまとめたルポルタージュ藤村新一氏がおもしろいほど成果を出すことに一抹の疑念を抱きつつも、まさか捏造が行われているとは思いもしていなかった研究者に対し、張り込みして現場を押さえた新聞記者の執念にジャーナリズムがもつポジティブな意義を感じた。STAP細胞をめぐる騒動なんかがどうしても今読むと脳裏をよぎるし、なんというか成果を出さねばならないという圧力はどんな分野も相当のものなのだろうなと思う。もちろん捏造は絶対正当化されえないにしても。
読了日:04月06日 著者:毎日新聞旧石器遺跡取材班
https://bookmeter.com/books/427992

 

失われた時を求めて〈6 第4篇〉ソドムとゴモラ 1 (ちくま文庫)

失われた時を求めて〈6 第4篇〉ソドムとゴモラ 1 (ちくま文庫)

 

 ■失われた時を求めて〈6 第4篇〉ソドムとゴモラ 1 (ちくま文庫)
 第4篇では同性愛の問題が急激に前景化し、語り手はシャルリュスの唐突な性慾の発露を目撃し、そしてアルベルチーヌもまた女性と関係を持っていたのではという疑念が嫉妬をかきたてる。とはいえもっとも印象に残ったのは語り手が祖母の死をようやく実感する「心情の間歇」の場面で、思い出に残る風景が強烈に人の不在を強調するあたりの描写は非常に胸に迫るものがあった。

読了日:04月08日 著者:マルセル プルースト
https://bookmeter.com/books/17920

 

新版 アニメーション学入門 (平凡社新書)
 

 ■新版 アニメーション学入門 (平凡社新書)
 アニメの定義から制作方法による分類、日本におけるアニメーション史、海外の状況などを整理。記述はいい意味で教科書的で、2016年の現況と課題がざっくり整理されていてよい。図書館で借りてざっと通読したのだけれど、手元に置いておいて適宜参照するような使い方に適した本なのかも。優れた教科書というのは概してそういうものだと思うのだけれど。
読了日:04月08日 著者:津堅 信之
https://bookmeter.com/books/11463063

 

鉄道沿線をゆく 大人の東京散歩 (河出文庫)

鉄道沿線をゆく 大人の東京散歩 (河出文庫)

 

 ■鉄道沿線をゆく 大人の東京散歩 (河出文庫)
 雑誌『東京人』の元編集によるお散歩本。見知った景色が他人の目にどう映っているのかっていうのを読んでいて楽しい本ではあるのだけれど、この手のエッセイのおもしろさって書き手の専門性にかかってるのではないかとかちょっと思っちゃう。原武史の鉄道エッセイが読ませるのってやはり政治思想史のバックボーンを随所に感じられるからだろうし。そういうわけでどうにも薄味な読後感。それがむしろぱらぱらめくるにはよいのかもしれないけれど。
読了日:04月09日 著者:鈴木 伸子
https://bookmeter.com/books/644097

 

大軍都・東京を歩く (朝日新書)

大軍都・東京を歩く (朝日新書)

 

 ■大軍都・東京を歩く (朝日新書)
 東京に残る軍関係の遺構をめぐるお散歩本。写真がカラーで嬉しい。東京にはそういう施設がたくさんあったことは想像に難くないにもかかわらず、その遺構ってその存在を知らなければまったく目に入らないよなと改めて思いしらされる。特に国立新美術館の本館のすぐ隣にそういう建物が残ってるとは、訪ねてみてもまったく気付かなかったので。
読了日:04月09日 著者:黒田 涼
https://bookmeter.com/books/9047655

 

シドニー! (コアラ純情篇) (文春文庫)

シドニー! (コアラ純情篇) (文春文庫)

 

 ■シドニー! (コアラ純情篇) (文春文庫)
 2000年のシドニーオリンピックの観戦記。オリンピックの話題が中心なのだけれど結構フリーダムにオーストラリアを旅行していて、観光エッセイみたいな雰囲気もある。村上本人が走る人だけあって、トライアスロンなんかの記述は熱がこもっているのだけどそうでないものはなんというか力を抜き気味で書いてる感が伝わってきてさらっと読めてしまう。
読了日:04月09日 著者:村上 春樹
https://bookmeter.com/books/527208

 

ストレンジボイス (ガガガ文庫)

ストレンジボイス (ガガガ文庫)

 

 ■ストレンジボイス (ガガガ文庫)
 いじめられた復讐を目論む不登校の少年、自分のあずかり知らぬところで運命を弄ばれるいじめの首謀者、そしてそれを観察する少女。学校という閉鎖空間の重力が支配する世界のなかで生きる歪んだ人間の物語は、復讐のカタルシスなど存在しないことを突きつけて幕を閉じる。そのままならなさ、終わらなさこそが我々の物語だとでも言わんばかりのこの読後感がかなり好き。
読了日:04月10日 著者:江波 光則
https://bookmeter.com/books/309484

 

ゲンロン0 観光客の哲学

ゲンロン0 観光客の哲学

 

 ■ゲンロン0 観光客の哲学
 国家とグローバリズム(コミュニタリアニズムリバタリアニズム等々の関係対がそれに対応する)とが並存する二層構造の現代世界で、その中間を行き来する「観光客」的な主体を構想することで、政治哲学をアップデートしようとする試み。その過程でネグリ=ハートの「否定神学マルチチュード」を「郵便的マルチチュード」へと読み替えていく。そのためには新たなアイデンティティの拠り所が必要だと主張し、その拠り所たる家族の考察の序論をもって本書は閉じられる。なんというか東浩紀の仕事すべてがここに流れ込んでいるような本だった。
読了日:04月10日 著者:東 浩紀
https://bookmeter.com/books/11699657

 

暴力はどこからきたか 人間性の起源を探る (NHKブックス)

暴力はどこからきたか 人間性の起源を探る (NHKブックス)

 

 ■暴力はどこからきたか 人間性の起源を探る (NHKブックス)
 暴力の起源を探るため、霊長類の生態を観察してその社会の構成を素描していく。ゴリラやチンパンジーなどの婚姻関係だったり子殺しだったり、個別の研究は霊長類の社会というものに対する興味が満たされるような感じで、語り口も啓蒙的だったのでおもしろく読んだのだけれど、そこから人類社会への知見を引き出すのは果たして妥当な手続きなのだろうかという疑念もあって、特に現状認識はピンカー『暴力の人類史』とは正反対というのもあって、いまいちのれなかった感じがする。
読了日:04月11日 著者:山極 寿一
https://bookmeter.com/books/376918

 

 ■日本ノンフィクション史 - ルポルタージュからアカデミック・ジャーナリズムまで (中公新書)
 単なるノンフィクション作品の羅列的な通史ではなく、日本において「ノンフィクション」なるものがいかに彫像され揺らぎつつ立ち上がってきたのかを跡付けた、まさしく「ノンフィクション史」。ルポルタージュからノンフィクションというジャンルが次第に構築されていくなかで重要な役割を果たしたのが大宅壮一で、本書の少なくない部分をドライブさせていくのはその人脈である、ともいえる。おわりにで語られる、フィクション性が時代の経過によって希釈されノンフィクション性が残るのではないか、という見立ては腑に落ちなくもないのだけど…。
読了日:04月12日 著者:武田 徹
https://bookmeter.com/books/11556801

 

政治のしくみがわかる本 (岩波ジュニア新書)

政治のしくみがわかる本 (岩波ジュニア新書)

 

 ■政治のしくみがわかる本 (岩波ジュニア新書)
 政治の理念についての説明から入り現実の日本政治の問題まで論じる、政治についての入門書。本書の示す「政治のしくみ」とは、個別具体的な仕組みではなく、抽象的な概念からながめられたメカニズムという感じ。その意味で結構教科書ちっくな印象を受けなくもないというか。どうにも集中できなくてぱらぱらページをめくって時間が過ぎた。
読了日:04月13日 著者:山口 二郎
https://bookmeter.com/books/464230

 

教育幻想 クールティーチャー宣言 (ちくまプリマー新書)

教育幻想 クールティーチャー宣言 (ちくまプリマー新書)

 

 ■教育幻想 クールティーチャー宣言 (ちくまプリマー新書)
 学校空間・教育の目的を「欲望の統御を身につけること」にあると捉え、その上で(「人柄志向」ではなく)「事実志向」で児童生徒に向き合うことの重要性を説く。教育現場や著者自身の育児の経験から引き出される知見は極めて地に足がついていて、単に教育の在り方にかかわるだけでなく、否応なしに非対称な人間関係のなかに身を置かざるを得ない我々すべてにかかわる、権力関係のなかでどう適切に身を処すのかという問題まで本書の射程はあるように感じられた。
読了日:04月13日 著者:菅野 仁
https://bookmeter.com/books/455554

 

シドニー! (ワラビー熱血篇) (文春文庫)

シドニー! (ワラビー熱血篇) (文春文庫)

 

 ■シドニー! (ワラビー熱血篇) (文春文庫)
 高橋尚子のマラソン金メダルをハイライトとして収めたこの巻は、栄光を得られなかった二人のランナーのスケッチで幕を閉じる。その冷めた余韻が非常に心地よいなと思った。
読了日:04月13日 著者:村上 春樹
https://bookmeter.com/books/521194

 

闘うレヴィ=ストロース (平凡社新書)

闘うレヴィ=ストロース (平凡社新書)

 

 ■闘うレヴィ=ストロース (平凡社新書)
 本書の特色は、レヴィ=ストロースがまだその名を広く知られる以前、若かりしころの彼の足跡を詳しく追っている点にあるだろうか。先日読んだブルデューの本でも感じたのだけれど、この世代の研究者ってのは否応なしに政治的な運動にコミットせざるを得ないような環境があったのかなーという雰囲気を感じた。しかし一冊読むなら現代思想の冒険者たちの方に収められた同著者の本の方がいいような気がしたのだけれど、どうなんですかね。
読了日:04月15日 著者:渡辺 公三
https://bookmeter.com/books/566660

 

ひらかれる建築: 「民主化」の作法 (ちくま新書 1214)

ひらかれる建築: 「民主化」の作法 (ちくま新書 1214)

 

 ■ひらかれる建築: 「民主化」の作法 (ちくま新書 1214)
 「民主化」をキーワードとして近代における建築/建物の歩みを概観する。多くの人々にシステマチックな住宅を提供することが「民主化」の手段だったかつての時代から、そのような意味での「民主化」は達成され、つくられた「ハコ」をいかに意味を生み出す「場所」へと変えていくのか、というのが「民主化」のテーマになっている、というのが著者の提示する見取り図だろうか。日本の雑多な街の風景を「民主化」の結果とポジティブに捉える視線に目を開かされた、という著者の経験談が非常に印象的だった。
読了日:04月15日 著者:松村 秀一
https://bookmeter.com/books/11202934

 

一九三〇年代のメディアと身体 (青弓社ライブラリー)

一九三〇年代のメディアと身体 (青弓社ライブラリー)

 

 ■一九三〇年代のメディアと身体 (青弓社ライブラリー)
 主にメディアに着目した1930年代論が収められた論文集。吉見ゼミの研究会の成果をまとめたもの。冒頭の吉見俊哉による1930年代論の整理は極めてクリアカットに研究史を概観していて、いつものことながら手腕に脱帽。本書に収められた論文が書かれた時期としては総力戦体制論(とその批判)を経由して、というタイミングだったのかなという感じがある。
読了日:04月16日 著者:吉見 俊哉
https://bookmeter.com/books/333666

 

 ■恥知らずのパープルヘイズ-ジョジョの奇妙な冒険より- (JUMP j BOOKS)
 一歩を踏み出せずにその場に留まった男が、そのツケを払うため修羅場へと送り込まれる。5部の後日談として「こういう話」が読みたかったというのが具現化しているようなシチュエーションで、しかも『ブギーポップ』で能力バトルを書いてきた著者だけあって異能者同士の対決はその本領発揮という感じなので完全に隙がない。本編で語られなかったフーゴという男の生き方、その決着と救済の物語が語られたことで、5部はようやく完結したのでは、とすら思った。
読了日:04月16日 著者:上遠野 浩平
https://bookmeter.com/books/7977661

 

 ■世界をわからないものに育てること――文学・思想論集
 主に2011年以降に書かれた論考等を所収。震災をきっかけに人々が感動をより軽薄に求めるようになった事態に警鐘を鳴らす『永遠の0』批判、柴崎由香を災後という文脈から読んだ論考、『巨匠とマルガリータ』論などが特に印象に残る。とりわけ『巨匠とマルガリータ』の読解は、「わからない」ところをこういう風に語るというのがまさしく批評なのだなと感服。
読了日:04月17日 著者:加藤 典洋
https://bookmeter.com/books/11163882

 

 ■国のない男 (中公文庫)
 晩年に書かれた随筆集。書かれた当時、すなわちブッシュ政権の時代の空気を濃厚に感じることができるのだが、ブッシュ政権にこれだけ痛烈な罵倒を浴びせるヴォネガットがもし現在生きていたなら、と想像してしまう。まさにそれを意図したタイミングでの文庫化なのだろうな、というのは解説を読んでも感じるところだけれども。
読了日:04月18日 著者:カート・ヴォネガット
https://bookmeter.com/books/11554808

 

世界史読書案内 (岩波ジュニア新書)

世界史読書案内 (岩波ジュニア新書)

 

 ■世界史読書案内 (岩波ジュニア新書)
 高校の世界史教師による読書案内。基本的に2ページでざっと紹介するような感じで、バランスよく各時代、地域をカバーしているのだが、著者の専門である中国近代史の本になると熱がこもった文章になってる感じはある。
読了日:04月19日 著者:津野田 興一
https://bookmeter.com/books/590512

 

地中海沿岸の都市バルミ 紀元前4世紀から現代までの変遷史 (図説都市の歴史)

地中海沿岸の都市バルミ 紀元前4世紀から現代までの変遷史 (図説都市の歴史)

 

 ■地中海沿岸の都市バルミ 紀元前4世紀から現代までの変遷史 (図説都市の歴史)
 地中海沿岸に架空の都市を想定し、紀元前から現代までの街の歩みを概観する。鳥瞰図で時代ごとの都市の様子をビジュアルで示しその後に解説を付す、という構成で、まずその都市の変遷を眺めているだけで楽しい。紀元前からローマ時代を経てゲルマンによって廃墟になったのち、中世都市が次第に現代的な相貌をまとってくるその流れは歴史のダイナミズムをまさしく体現しているように感じた。
読了日:04月19日 著者:ハビエル エルナンデス,ピラール コメス,ジョルディ バロンガ
https://bookmeter.com/books/268836

 

熱い都市 冷たい都市 (青弓社ルネサンス)

熱い都市 冷たい都市 (青弓社ルネサンス)

 

 ■熱い都市 冷たい都市
 都市とはいかなるものなのか、その問いを探求する旅路はアフリカ、中国、古代日本、そしてヨーロッパの中世都市から近代都市へと至り、城壁に囲まれた「冷たい都市」ではなく境界が曖昧で拡がりをもつ「熱い都市」が出現するのを私たちは目撃する。時間・空間をダイナミックに駆け巡る本書の考察についていけたかといえばたいへんあやしくて、要再読という感じなのだが、社会が「都市化」した現代にあってその都市とはいかなるものなのかを問う、そのことの面白さみたいなものは強く感じた。
読了日:04月20日 著者:若林 幹夫
https://bookmeter.com/books/1251199

 

思考術 (河出ブックス)

思考術 (河出ブックス)

 

 ■思考術 (河出ブックス)
 タイトルから想起されるようなハウツー本というよりは、大澤がいかに本を読んでいるのかを追体験したような読後感。社会科学、文学、自然科学と三章立てで、大澤の関心から様々な本が一つの文脈に回収されていく語りの手際は見事、とみるか、それとも我田引水ないし牽強付会とみるか、というのが近年の大澤の著作を評する一つの基準になるような気もするのだけど。
読了日:04月21日 著者:大澤 真幸
https://bookmeter.com/books/7780099

 

都市のドラマトゥルギー (河出文庫)

都市のドラマトゥルギー (河出文庫)

 

 ■都市のドラマトゥルギー (河出文庫)
 盛り場を行政や企業が「台本」を拵え、そしてそこに集う人々が「演じる」という相互作用によって成立する「出来事」として捉え、盛り場において働く機制から近代に生きる我々の生の在りようを浮き彫りにする。強固な理論的枠組みがあり、それに沿って展開していく議論は図式的に感じられもするのだけど、しかしその図式が極めてクリアカットなためにぐいぐい読ませる。自分にとって極めて大きな位置を占める本だなというのを今回再読して改めて確認した。

読了日:04月22日 著者:吉見 俊哉

https://bookmeter.com/books/498010

 

中米ユカタン半島の都市サンラファエル 紀元前3世紀から現代までの変遷史 (図説都市の歴史)

中米ユカタン半島の都市サンラファエル 紀元前3世紀から現代までの変遷史 (図説都市の歴史)

 

 ■中米ユカタン半島の都市サンラファエル 紀元前3世紀から現代までの変遷史 (図説都市の歴史)
 ある地域に架空の都市を想定し、その都市が古代から現代まで辿った歴史を鳥瞰図とともに提示するシリーズ。この巻はユカタン半島の都市が想定されていて、マヤ文明の時代からスペインの植民地時代を経て現代に至る。マヤ文明時代はどうにも百年一日の感がありダイナミズムに欠けるのだけれど、それが都市が自壊してジャングルに飲み込まれる破局にえらい驚かされた。その後ドラスティックに近代化・都市化を遂げていく様を眺めるのは快感があってやっぱりおれは近代がインストールされてるのかなとか思う。
読了日:04月23日 著者:ハビエル エルナンデス
https://bookmeter.com/books/268837

 

[映]アムリタ (メディアワークス文庫 の 1-1)
 

 ■[映]アムリタ (メディアワークス文庫 の 1-1)
 天才と呼ばれる少女に映画制作に誘われた役者志望の大学生。天才の手腕に導かれ映画制作は滞りなく進むが、その制作自体が天才の仕組んだ舞台だった。虚構世界の虚構性が暴露され、個人の主体性などありはしないとでも声高に叫ぶがごとき天才の哄笑が映画館に響き渡るラストの残酷な爽快感に打ち震えた。はっきりいってフェアではないと思うのだけど、そのフェアでなさこそがまさにこの作品の核心なのだろうなと。

読了日:04月23日 著者:野崎 まど
https://bookmeter.com/books/563924

 

北海に面した港町レベック 紀元前10世紀から現代までの変遷史 (図説都市の歴史)

北海に面した港町レベック 紀元前10世紀から現代までの変遷史 (図説都市の歴史)

 

 ■北海に面した港町レベック 紀元前10世紀から現代までの変遷史 (図説都市の歴史)
 このシリーズはほんと眺めてるだけ楽しい。ヴァイキングの築いた都市が北海貿易の衰退に伴って衰微し、中世都市としての陣容を整えるもそれらは第二次世界大戦で灰燼に帰す。諸行無常
読了日:04月24日 著者:ハビエル エルナンデス,ジョルデイ バロンガ,フランチェスコ コルニ
https://bookmeter.com/books/140753

 

北アフリカのイスラム都市ウム・エル・マダヤン 旧石器時代から現代までの変遷史 (図説都市の歴史)

北アフリカのイスラム都市ウム・エル・マダヤン 旧石器時代から現代までの変遷史 (図説都市の歴史)

  • 作者: アブデルラーマンアユーブ,アブデラザックグラーグアップ,ヘディスリム,ジャミラビヌース,アリティメット,フランチェスココルニ,Abderrahman Ayoub,Francesco Corni,Abderrazak Gragueb,Hedi Slim,Jamila Binous,Ali Mtimet,川添登,木村尚三郎
  • 出版社/メーカー: 東京書籍
  • 発売日: 1993/11
  • メディア: 大型本
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 ■北アフリカイスラム都市ウム・エル・マダヤン 旧石器時代から現代までの変遷史 (図説都市の歴史)
 フェニキア時代からローマの時代を経てイスラームの都市が花開く。近代に入ってからの変化がこのシリーズで取り上げられた他の地域と比べるとそれほどドラスティックでない点が、なるほどなって感じ。
読了日:04月24日 著者:アブデルラーマン アユーブ,アブデラザック グラーグアップ,ヘディ スリム,ジャミラ ビヌース,アリ ティメット,フランチェスコ コルニ
https://bookmeter.com/books/1979705

 

舞面真面とお面の女 (メディアワークス文庫)

舞面真面とお面の女 (メディアワークス文庫)

 

 ■舞面真面とお面の女 (メディアワークス文庫)
 半世紀以上前に残された曾祖父の遺言に隠された真実を少年が探る。それを明らかにすることはすなわち、彼が自身の仮面を選択する物語でもある。陳腐な決着の後に事件が真の相貌をあらわにする二段構えの解答編は『[映]アムリタ』と同様の快感。飢えた天才が自身の進むべき道を見出すラスト、新たな物語が始まりを告げタイトルが腑に落ちる感覚がすげえよかった。
読了日:04月25日 著者:野崎 まど
https://bookmeter.com/books/551956

 

「昭和天皇実録」を読む (岩波新書)

「昭和天皇実録」を読む (岩波新書)

 

 ■「昭和天皇実録」を読む (岩波新書)
 『昭和天皇実録』出版にあたって行われた講義をもとにした書籍。『昭和天皇』がそうだったように、原の関心は宮中の祭祀に少なからず向けられているのだが、それ以外にもさまざまなエピソードを拾い読み的に辿っていくような構成。『実録』が退位をめぐる記録を意図的に記述から排除していることなど、研究者の「書かれていないこと」を読む嗅覚みたいなものは流石だなと感服。
読了日:04月27日 著者:原 武史
https://bookmeter.com/books/9849128

 

 ■自由の秩序――リベラリズム法哲学講義 (岩波現代文庫)
 自由をめぐる講義形式の本。疲れた脳みそにこれほど不適当な本もあるめえよという感じで目が滑るわ滑るわで大変だったのだけれども、最後の対話篇形式のパートなんかは対立軸が明確かつ現実の問題を論じていてなんとなく入ってきた感じはする。なんとなくだけど。
読了日:04月28日 著者:井上 達夫
https://bookmeter.com/books/11602840

 

羆嵐 (新潮文庫)

羆嵐 (新潮文庫)

 

 ■羆嵐 (新潮文庫)
 冬の開拓村に出没し、人を食らう大羆。たった一匹で人々を恐慌状態に陥れたこの怪物に、立ち向かうははぐれ者の一匹狼の猟師。羆の恐怖を淡々とした情景描写の積み上げで描き出す筆致の緊張感が凄まじい。群れとしての人間の弱さ、それと対照的に描写される孤独な猟師の強さもその内奥に弱さを隠してもいたという決着後の挿話から、結局は人間の弱さ、しかしその弱さを超えていくなにかを浮き彫りにするような、そういう小説だったという気がする。

 ヒグマが夢枕にたったのをきっかけに再読しました。
読了日:04月29日 著者:吉村 昭
https://bookmeter.com/books/580066

 

 ■死なない生徒殺人事件―識別組子とさまよえる不死 (メディアワークス文庫)
 死なない生徒の殺人事件/死なない生徒が殺人事件。学校周りのディテールに粗を感じなくもないけれどもすらすら読ませてしまう軽妙な語り口は流石という感じ。
読了日:04月30日 著者:野崎 まど
https://bookmeter.com/books/665230

 

近況

劇場でみた映画は2本。

彼女をたよりに世界を歩け――映画『夜は短し歩けよ乙女』感想 - 宇宙、日本、練馬

オマージュ、コラージュ、リスペクト――『ゴースト・イン・ザ・シェル』感想 - 宇宙、日本、練馬

 

ほか、ユーフォについて考えを整理し、『龍の歯医者』をみました。

「あなたが決めろ」と悪魔は笑う――『響け!ユーフォニアム』と選択の意味 - 宇宙、日本、練馬

運命を知る/選ぶこと――『龍の歯医者』感想 - 宇宙、日本、練馬

 

来月のはこちら。