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松本清張『ゼロの焦点』感想、あるいは宮部みゆき『火車』のこと

ゼロの焦点(新潮文庫)

 『点と線』に続いて、未読の松本清張の代表作を読んでいこうという気持ちで読みました、『ゼロの焦点』。以下、感想。作品の核心部分に触れています。

 お見合いによって、年上の広告代理店の男と結婚した女。しばらく勤務していた金沢から東京に移るにあたって残務処理のため金沢に滞在していたはずの男は、しかし行方知れずになってしまう。女は男を探し、金沢へと赴く。

 松本清張の代表作の一つ。書籍化は1959年。『点と線』から一年後にすでに発表しているのだからその精力的な執筆活動には恐れ入るばかり。2度の映画化がなされていて、わたくし未読ながらもおおよその筋は知っていた。かつてパンパンだった過去をもつ女が、現在は地方の名士の妻におさまっており、その過去の発覚を恐れて犯行におよぶ…。

 今回読んでみて思ったのは、宮部みゆきの代表作『火車』ってこの『ゼロの焦点』を下敷きに、というのは言い過ぎかもしれないが、濃厚にオマージュしていたのだなということ。婚約者ないし配偶者の失踪、女に隠された過去という大枠を規定するモチーフもそうだし、どちらも「家の写真」がキーとして出てくるのよね。『火車』のそれはとりわけ印象的なディティールだと思う。

 かつ、どちらも執筆当時にアクチュアルであったろう社会問題——米軍占領下の過去、サラ金による多重債務——を作品の核に据えているのも同様。登場人物の生活の書き込みや捜査のディティールの面では、さすがに時代の下った『火車』のほうが洗練されているように思えるが、『ゼロの焦点』も十分におもしろい。

 で、「輝ける現在」を脅かす「汚れた過去」が犯罪の動機になるのって『砂の器』もそうなんだよね。宮部みゆきがセレクションした松本の短編集を読むと、松本清張という作家は同じモチーフを反復することになんら躊躇いを感じていなさそうな感じがしたので…。

 

 というわけでまとまりはありませんが、リハビリテーションの一環として書きました。新しいほうの映画は未見ですが、広末涼子ってぜったいミスキャストよね…

 

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