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関節技おそるべし!────『餓狼伝: The Way of the Lone Wolf』感想

餓狼伝 : I (双葉文庫)

 『餓狼伝: The Way of the Lone Wolf』をみたので感想。

 師匠の娘を襲った暴漢を過剰防衛で殺害し、指名手配となった男、藤巻十三。古武術・竹宮流を修めた藤巻は、その武器をあくまで秘して平穏な暮らしを送ろうとするが、彼のうちに眠る飢えた狼の血は、あるいは宿命は、それを許さない。

 夢枕獏による大河格闘小説のアニメ化。これまで谷口ジロー板垣恵介によって漫画化されているが、今回のアニメ化はキャラクターデザインの水準ではそれらと一線を画するものとなっている。『グラップラー刃牙』のアニメ化が世界的に大当たりしたというNetflixが、次なく金脈を探して放った一手、というような企画だろうか。

 アニメーション制作は『ID:INVADED イド:インヴェイデッド』のNAZ。監督は同作でキャラクターデザインをつとめた碇谷敦で、本作でもキャラクターデザイン・総作画監督としてクレジットされている。画面設計もどことなく『イド:インヴェイデッド』の延長という雰囲気を感じさせるが、筋骨隆々のキャラクターたちの迫力は、谷口ジローや板垣の描いたそれと比べると見劣りし、やや柔らかな印象を残すものになっている。これは先行する両者が偉大な書き手だというのもそうだし、後述するこのアニメの魅力であるアクションをスムーズに描くために選び取られたものだろう。

 このアニメの魅力はなんといっても格闘戦。現役の格闘家のモーションをもとにロトスコープを用いた作画がなされていて、これが先行する格闘アニメとの大きな差別化ポイントになっている。

なぜロトスコープなのか? - 『餓狼伝』格闘シーン制作秘話 | ネトフリアニメ - YouTube

 特に白眉は寝技、関節技のスムーズなダイナミズムで、おそらくこの水準での正確無比なそれらの技の描写はこれまでなされたことがなかったのではないか。その技巧を過剰に見せびらかすことなくスムースに流していくが、しかしそのダイナミズムには思わず唸らされた。そしてロトスコープを用いた部分がそうでない部分と齟齬をきたしておらず、ほとんど完璧に馴染んでいる点も驚いた。

 一方、打撃も迫力あふれるものになってはいるのだが、こちらは外連味という点では『カウボーイビバップ 天国の扉』など最高峰のアニメには及んでいなかったように感じられる。『天国の扉』と比べたらほとんどのアニメが形無しだとは思うんだけど...。

 お話は極めてシンプルで、上記の格闘アクションを描くためのエクスキューズづくりのようなもの。その割り切りぶりもすがすがしい。とにかく、前人未到の寝技・関節技アニメがみたかったら一見して損なしですよ。

 

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『喧嘩稼業』もこの質感でアニメ化、してくれてもいいんですよ。

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