宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

2018年4月に読んだ本と近況

 5月ですってよ。元気です。

 先月の。

2018年3月に読んだ本と近況 - 宇宙、日本、練馬

 印象に残った本

沖で待つ (文春文庫)

沖で待つ (文春文庫)

 

  4月の後半は一日一芥川賞チャレンジをやっていて、そういう感じでした。なかでも絲山秋子沖で待つ』は刺さりまくりでたいへんよいものを読ませていただきました、はい。

読んだ本のまとめ

2018年4月の読書メーター
読んだ本の数:22冊
読んだページ数:5866ページ
ナイス数:255ナイス

https://bookmeter.com/users/418251/summary/monthly

 

 

ポピュリズムとは何か - 民主主義の敵か、改革の希望か (中公新書)
 近年世界的に活発化しているポピュリズムについて、その歴史と特徴を概説する。南米に始まりヨーロッパ・アメリカに至るような構成で、アルゼンチンのペロンなどの独裁者から近年のヨーロッパにおける所謂極右的な政党まで、ポピュリズムの歴史の流れをわかった気になれる。近年のヨーロッパのポピュリズムは、「リベラル」な「デモクラシー」を称揚してイスラム系の人々を排斥しようとしている、というロジックはなるほどなーと。
読了日:04月03日 著者:水島 治郎
https://bookmeter.com/books/11240318

 

アースダイバー 東京の聖地

アースダイバー 東京の聖地

 

 ■アースダイバー 東京の聖地
 築地市場明治神宮(に隣接する新国立競技場)という、昨今ネガティブな話題を振りまいたスポットを「聖地」と見立てその来歴をたどる。中沢は豊洲への移転も新国立競技場にも基本的には反対という立場で、それまで聖地を聖地たらしめてきたものをそれらが毀損することに警鐘を鳴らす。なんというか時代にずるずるべったりという感じで、無印のようなおもしろさは感じなかったなというのが正直なところです。
読了日:04月03日 著者:中沢 新一
https://bookmeter.com/books/12493088

 

オリンピックと万博 (ちくま新書)

オリンピックと万博 (ちくま新書)

 

 ■オリンピックと万博 (ちくま新書)
 主に東京オリンピック大阪万博を、デザインとデザイナーから眺める。抽象的なロゴマークを設定した点、またデザインの方向性を強く統制した点に、東京オリンピックの歴史的画期がある、というのはなるほどなーという感じ。また丹下健三岡本太郎を、全く違う仕方で「国民的建築家」、「国民的アーティスト」と位置付ける見立ても頷くことしきり。本書の主要な話題はデザインのことなので、それがメインタイトルにあったらいいのにねとは思いました。
読了日:04月05日 著者:暮沢 剛巳
https://bookmeter.com/books/12582051

 

夜露死苦現代詩 (ちくま文庫)

夜露死苦現代詩 (ちくま文庫)

 

 ■夜露死苦現代詩
 おれたちの周りには現代詩ともいうべき文字列どもが溢れている。それを採集したりそれにまつわるあれこれを語ったりするエッセイ。商業出版のルートに乗っている死刑囚の俳句なんかにも光を当てているのだが、日米のヒップホップカルチャーなんかも取り上げられていて、2018年現在にヒップホップカルチャーに対するここまで素朴な言及を読むと隔世の感があるなあとは思いました。Twitter上でマンションポエムとのからみで教えていただいた本。
読了日:04月07日 著者:都築 響一
https://bookmeter.com/books/388567

 

20世紀ロシア思想史――宗教・革命・言語 (岩波現代全書)

20世紀ロシア思想史――宗教・革命・言語 (岩波現代全書)

 

 ■20世紀ロシア思想史――宗教・革命・言語 (岩波現代全書)
 20世紀のロシア思想を、いわゆる哲学に限らず広く紹介する。バフチンに始まり、記号論宗教哲学、ロシアフォルマリズム、スターリン言語学などを経て、ソ連崩壊後のポストモダンの時代が扱われる。バフチンなどは流石に多くのページを割かれているが、多くの登場人物はあっさりその思想の概略を紹介するような感じなので大変なスピード感でした。
読了日:04月09日 著者:桑野 隆
https://bookmeter.com/books/11517738

 

棋士という人生: 傑作将棋アンソロジー (新潮文庫)

棋士という人生: 傑作将棋アンソロジー (新潮文庫)

 

 ■傑作将棋アンソロジー (新潮文庫)
 坂口安吾から現役棋士まで、様々な立場の人によって書かれた将棋に関する文章のアンソロジー。死に関わる文章が胸を打つのは必定という感じだが、団鬼六吉野家飲みの文章がやけに心に残っている。しかし、編者の不遜な態度が非常に不愉快です。
読了日:04月09日 著者:
https://bookmeter.com/books/11171763

 

中国行きのスロウ・ボート (中公文庫)

中国行きのスロウ・ボート (中公文庫)

 

 ■中国行きのスロウ・ボート (中公文庫)
 「中国行きのスロウ・ボート」と「午後の最後の芝生」が好きでした。どちらも働くことのディテールが妙に頭に残る。
読了日:04月10日 著者:村上 春樹
https://bookmeter.com/books/580054

 

歴史ができるまで――トランスナショナル・ヒストリーの方法 (岩波現代全書)

歴史ができるまで――トランスナショナル・ヒストリーの方法 (岩波現代全書)

 

 ■歴史ができるまで――トランスナショナル・ヒストリーの方法 (岩波現代全書)
 スペイン史研究者の学問的自伝。かつてのスペイン史研究ってのはフランコ政権との緊張関係があったのだなとか、アナール学派の影響力の大きさとか、そういう挿話が印象的だった。
読了日:04月12日 著者:J.H.エリオット
https://bookmeter.com/books/11826599

 

砂の器〈上〉 (新潮文庫)

砂の器〈上〉 (新潮文庫)

 

 ■砂の器〈上〉 (新潮文庫)
 蒲田操車場で発見された遺体と、そこに絡み合う新進芸術家グループの影。いま読むと、戦後の高度成長の只中の風俗描写がやたらと印象に残る。まだ戦後の香りを漂わせつつ変わりゆく最中の東京、そこから遠く離れた東北あるいは島根のうらぶれた景色が脳裏に浮かぶ。
読了日:04月12日 著者:松本 清張
https://bookmeter.com/books/559300

 

砂の器〈下〉 (新潮文庫)

砂の器〈下〉 (新潮文庫)

 

 ■砂の器〈下〉 (新潮文庫)
 エレクトロニクス押売り撃退器(p.336)。下巻でも今西刑事は日本列島をせわしく飛び回る。夜行列車にゆられてどれほどの距離を駆け巡ったのだろうか。新幹線なき時代の本州の広大さよ。そして誰も飛行機に乗ることはできない。何故ならこれは地を這う列車の小説なのだから。
読了日:04月14日 著者:松本 清張
https://bookmeter.com/books/559301

 

二都物語(下) (光文社古典新訳文庫)

二都物語(下) (光文社古典新訳文庫)

 

 ■二都物語 下 (古典新訳文庫)
 筋を知っていようが心を動かされてしまうのは、魂の救済を謳う言葉の力故だろう。数ヶ月前に読書メーターに登録したと思ってたのだが登録されていなかったようだ。
読了日:04月14日 著者:ディケンズ
https://bookmeter.com/books/10704635

 

ホームズと推理小説の時代 (ちくま学芸文庫)

ホームズと推理小説の時代 (ちくま学芸文庫)

 

 ■ホームズと推理小説の時代 (ちくま学芸文庫)
 ホームズと、その影響下に書かれた「推理小説の黄金時代」(1920〜30年代頃)の推理小説群を紹介する。トリヴィアルな雑学が散りばめられているが、その推理小説が書かれた時代ないし社会の在りようには踏み込んでいない禁欲ぶりで、批評のようなものを期待すると肩透かしかなあとも思う。そういうのを期待するなら内田隆三(奇妙なことだが本書の参考文献にはあがっていない)を読め、ということなんでしょうか。
読了日:04月16日 著者:中尾 真理
https://bookmeter.com/books/12645992

 

「隔離」という病い―近代日本の医療空間 (中公文庫)

「隔離」という病い―近代日本の医療空間 (中公文庫)

 

 ■「隔離」という病い―近代日本の医療空間 (中公文庫)
 近代日本におけるハンセン病の隔離政策と、その担い手たちの論理から、それを支え続けてきた日本社会の「質」を問う。フーコーの権力論はこうした対象を読み解くのに極めてマッチしている、と著者の分析を通して改めて実感する。「生きがい」によって編成される目的論的人生こそが「よい」のだとする思考、それこそが隔離というある種の(人権が蹂躙された)「ユートピア」を生み出していた、という見立てはなるほどなーという感じ。
読了日:04月17日 著者:武田 徹
https://bookmeter.com/books/204103

 

マーティン・ルーサー・キング――非暴力の闘士 (岩波新書)

マーティン・ルーサー・キング――非暴力の闘士 (岩波新書)

 

 ■マーティン・ルーサー・キング――非暴力の闘士 (岩波新書)
 キングの伝記。サブタイトルにあるように「非暴力」がキータームになっていて、敵の暴力によって敵を制するという柔術的な戦術であり、同時に指導者にとっては「生き方」でなければならないものとしてそれをとらえる。運動において戦術としての非暴力が果たした役割の記述は大変おもしろく読んだ。その後、キングの業績は公民権運動に一元化され、ベトナム反戦運動や貧困など経済的な面での主張は意図的に公的な記憶からは遠ざけられつつある、という記憶をめぐる総括もなるほどなという感じ。
読了日:04月17日 著者:黒崎 真
https://bookmeter.com/books/12723683

 

土の中の子供 (新潮文庫)

土の中の子供 (新潮文庫)

 

 ■土の中の子供 (新潮文庫)
 暗い過去をもつタクシー運転手がその過去と決着をつけるため彷徨する表題作、他一篇を所収。どちらも基調となるのはダイアローグではなくモノローグであり、言語の操作は内省のための手段であるという雰囲気が強い。表題作の物を落下させる場面なんかの追想のディテールが強く印象に残っていて、映像的なイメージを喚起する象徴的なシーンの強烈さは抜群ではないかと思いました。
読了日:04月19日 著者:中村 文則
https://bookmeter.com/books/490257

 

沖で待つ (文春文庫)

沖で待つ (文春文庫)

 

 

沖で待つ (文春文庫)
 事故死した仕事上の同期との思い出を綴る表題作、上司を殴って退社した女の休日を書く「勤労感謝の日」、漢字抜きの児童書風味で石原慎太郎風味の男が南の島で魚と遊ぶ「みなみのしまのぶんたろう」所収。働くことのディテール、それによって担保される人間とその関係の実在感がよいなあと思いました。表題作のタイトルの秀抜さよ。
読了日:04月21日 著者:絲山 秋子
https://bookmeter.com/books/580750

 

猛スピードで母は (文春文庫)

猛スピードで母は (文春文庫)

 

 ■猛スピードで母は (文春文庫)
 小学生時代の夏休み、家出した母と入れ代わりで家にいついた奇妙な女性との交感を描く「サイドカーに犬」、シングルマザーの奮闘と失恋を小学生男子の目線で眺めた表題作を所収。「サイドカーに犬」の女版『菊次郎の夏』的な雰囲気が好き。実写映画になるのも納得です。表題作は北海道の霧の朝のイメージがなんとなく心に残っている。
読了日:04月21日 著者:長嶋 有
https://bookmeter.com/books/578210

 

蹴りたい背中 (河出文庫)

蹴りたい背中 (河出文庫)

 

 ■蹴りたい背中 (河出文庫)
 クラスで孤立している少女が、モデルに異様な執着を見せるクラスメイトの男子と奇妙に接近していく。「好き」だとか「浮いてる」だとか、そうしたありふれた言葉、形式に固着させようとする周囲の言葉を蹴り飛ばし、あくまで自身の感覚を語ろうとする苦闘のあと。親しくしていた友人の変化と疎隔とが、とりわけ印象に残った。そこに類型化とそれを拒む力の拮抗と緊張とが端的に現れていると思うので。
読了日:04月22日 著者:綿矢 りさ
https://bookmeter.com/books/563881

 

火花 (文春文庫)

火花 (文春文庫)

 

 ■火花 (文春文庫)
 破天荒な芸人を師と仰ぎ、僅かな人の目にのみその輝きを映した火花のごとき青春とその終わり。おそらく自身の経験に大きく拠ったある種の私小説的な題材を、青春小説という枠組みにかっちりとはめてみせて、お笑い芸人という(小説家とは違う仕方で)言葉をあやつるプロフェッショナルの悲哀と矜恃とを見事に語りきってみせていて、強烈にエモーションを刺激された。
読了日:04月23日 著者:又吉 直樹
https://bookmeter.com/books/11293635

 

偽満州国論 (中公文庫)

偽満州国論 (中公文庫)

 

 ■偽満州国論 (中公文庫)
 満州国をひとつの国家論のテクストとして読み解く試み。満州国の来歴から語り起こし、その大立者であった甘粕、吉本隆明共同幻想論やハートの言語ゲーム論を下敷きにした法理論などなど、さまざまな要素がコラージュされているような印象を受けやや散漫に感じられた。それがむしろ狙いなのかもしれないが。
読了日:04月26日 著者:武田 徹
https://bookmeter.com/books/209478

 

上野に行って2時間で学びなおす西洋絵画史 (星海社新書)

上野に行って2時間で学びなおす西洋絵画史 (星海社新書)

 

 ■上野に行って2時間で学びなおす西洋絵画史 (星海社新書)
 上野の国立西洋美術館の常設展を素材にして西洋美術史をたどる。これは結構アイデアの勝利なんじゃないかという気がしていて、今まで漠然としか眺めたことのなかった西洋美術館の展示に大きな流れがあったのだな、という当たり前のことを気付かせてくれる。画家が「何を描こうとしたのか?」という問いにざっくばらんに(印象派が描こうとしたのは光なんだ、的に)回答を与えていくさまは、ある種の目を鍛えるための縁になる、という気がする。図版の掲載の仕方にいささか不満はあるが、またぱらぱらめくりたいです。
読了日:04月26日 著者:山内 宏泰
https://bookmeter.com/books/6809863

 

パーク・ライフ (文春文庫)

パーク・ライフ (文春文庫)

 

 ■パーク・ライフ (文春文庫)
 日比谷公園で名も知らぬ女と奇妙な逢瀬(逢瀬と言っていいのか?)を描いた表題作と、運送業と生け花の話「flowers」を所収。都市を生きるなかですれ違うなんてことない人生の一つ一つに輪郭を与えてしまうような、そういう目が印象に残っている。
読了日:04月27日 著者:吉田 修一
https://bookmeter.com/books/580143


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近況

平凡な人間の非凡な決断――『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』感想 - 宇宙、日本、練馬

語られざる真の暗闇へ――『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』感想 - 宇宙、日本、練馬

破滅を欲望するものども――『パシフィック・リム: アップライジング』感想 - 宇宙、日本、練馬

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鮮烈なる神々――アニメ『Fate/Apocrypha』感想 - 宇宙、日本、練馬

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とにかく、『リズと青い鳥』でした。『リズと青い鳥』です。

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来月の。

 

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