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冨樫義博の器用なこども——芥見下々『呪術廻戦』感想

呪術廻戦 10 (ジャンプコミックスDIGITAL)

 芥見下々『呪術廻戦』を10巻まで読みました。憎らしいほどのクレバーさ!以下、感想。

  人間の負の感情が生み出す異形、「呪い」。それを祓う使命を負った呪術師たち。奇妙な運命に誘われるように、凶悪極まる「呪い」をその身の内に宿すことになった少年と、彼とともに戦う友人たち、そして師たちの戦いを描く。

 冨樫義博への信仰を隠そうともしない佇まいは、もはやあらゆるフィクションが先行する作品たちの引用の織物たらざるを得ない我々の時代の空気を適切に引き受けようとする覚悟であろうか。主人公たちの敵役、夏油傑は、師の因縁の相手という意味では戸愚呂のポジションを想起させ、人類への絶望という動機は仙水忍のそれと重なるだろう。最強の師、五条の余裕を一切崩さない全能性はクロロ=ルシルフルのようでもある。能力バトルという文脈においても、ロジカルな筋立てを組み立てていく語りはいかにも『ハンターハンター』風と感じる。それと何より、キャラクターへの愛着よりもドラマのカタルシスを優先して容赦なくキャラクターを退場させる非情な語りにおいて。

 冨樫義博という作家は、場面場面では極めてロジカルにドラマを展開させる一方で、作品世界全体の構造をさほど意識せず、天衣無縫に歩みをすすめているように思える。『ハンターハンター』でいえば、近年進行中の暗黒大陸編は明らかに連載中に閃いてしまったもの、というふうに映る。語りたいドラマがあり、それにあわせて融通無下に作品世界を構築していくかのような手つきは、まさしく天才のそれだろう。

 一方、この『呪術廻戦』は、結末は既に決めてあると作者自身が語っているように、冨樫義博的な奔放な語りは禁欲されているような印象を受ける。そこがやはりこの作品の美点だろう。五条という師が「最強」であると強調することで、作品世界の広がりにある一定の上限を設けたことは、かつていくつもの漫画が『週刊少年ジャンプ』誌上で失敗してきたことの轍は踏むまいとする宣言のようにも感じる。

 『呪術廻戦』における師と生徒の関係は『NARUTO』のそれを想起させ(五条には序盤のカカシ的な雰囲気が濃厚であることはわざわざ指摘するまでもないだろう)、随所に光るはったりの効かせ具合は『BLEACH』に通ずる。しかしそれらの作品は、連載長期化にともなうインフレーションにともなって作品世界を十全に統御しきれなくなり、全体としては明らかに破綻をきたしていた。『呪術廻戦』における「最強」の位置価は、それらの作品への明確な反省として読んでもよいだろう。

 そうした先行作品への明確な目配せ、そしてアンサーがあるという点で、『週刊少年ジャンプ』的なるものへの批評になっている点、それがこの作者のクレバーさだろう。フィクションとしての自意識を、過剰にならない程度に語ってみせる器用さ。

 『暗殺教室』や『鬼滅の刃』、『チェンソーマン』等々、人気漫画であってもむやみに長期連載にせずきっちり終わらせるのがここ5年くらいの『週刊少年ジャンプ』の方針のようにも感じられるのだけど、それはやはりはっきりよいことだと思う。このくらいの巧さを、週刊連載という形式において達成しなければならない漫画家という仕事の恐るべき過酷さにおののく。

 

 

呪術廻戦 14 (ジャンプコミックスDIGITAL)

呪術廻戦 14 (ジャンプコミックスDIGITAL)