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危機と再起の寓話として——『フラ・フラダンス』感想

フラ・フラダンス Original Soundtrack(通常盤)

 『フラ・フラダンス』をみました。以下感想。

 福島県いわき市に住む少女、夏凪日羽。かつて姉の真理が勤務していたスパリゾートハワイアンズに勤務することになった彼女は、フラダンサーとして仲間と共に日々を過ごしてゆく。

 『アイカツ!』シリーズを手掛けてきたBN Picturesによる、オリジナルアニメ映画。キャラクターデザインを務めるのも『アイカツ!』シリーズ同様やぐちひろこで、3DCGで描かれるダンスシーンはまさしく同シリーズで培ってきた技術の賜物だろうと推察する。『岬のマヨイガ』と同じく、東日本大震災から10年の節目に被災した3県を舞台にしたアニメーションを企画した「ずっとおうえん。プロジェクト 2011+10…」の一環として制作され、福島県スパリゾートハワイアンズを舞台に、ポスト震災の物語が語られる。

 主人公の日羽は特に強い動機をもってフラダンサーを志したわけではなく、ある種のアイデンティティないし居場所の探求をめぐるウェルメイドな成長譚が全体を貫いている。序盤は不全感を喚起する展開が続くが、それが次第に溶解してゆくさまを自然なタッチで描く吉田玲子の脚本は流石の仕事ぶり。主要キャラクター5人のドラマは限定された尺のなかで誠実に処理され、それぞれが適度に魅力あるパーソナリティの一端をみせる。

 見せ場としてのダンスシーンも、異なる趣向・課題設定を工夫し、こちらを飽きさせないつくりになっている。しかし、『アイカツ!』シリーズを視聴していれば自明なのかもですが、3DCGのキャラクターのモデリングの巧みさはすごいですね。一方で、作画で描かれている(と推察される)シーンにおけるダンスでも足の運びなどかなり気持ちよく描かれていて、大変なエネルギーが費やされているのではないか、と感じた。

 主人公たちのつらさと、かつて被災した土地の記憶とがオーバーラップされ、それを「乗り越えてきた」のだと先輩の男は語るが、それが今まさに新型コロナウイルスによってもたらされた危機のただなかにあるだろうスパリゾートハワイアンズという場所のことを想起させもする。2006年に公開された『フラガール』で語られ、この映画でもエンディングにおいてその記憶に触れられる常磐炭鉱の衰退から始まる恢復の物語を、2011年以後という文脈に再び埋め込んで再話してみせたこの『フラ・フラダンス』は疑いなく誠実な映画だとは思うが、しかし同時に、その誠実さがなお語り落してしまうものがあるという気もしている。この映画が語る個人的な再起の物語は、個人的だからこその意味と価値、普遍性をもつと思うのだけど、それがこの現実といかなる関係を結びうるのか、という問いに対しても個人的な圏域のなかのアンサーに留まっている...という気がするが、しかしまさしく個人的な圏域でのほんのちょっとの慰めがフィクションの役目なのだろうとも思う。自分でも何言いたいのかようわからんわ。