宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

夏の終わりの悲しさ、タイムマシンとしての映画——映画『四畳半タイムマシンブルース』感想

四畳半タイムマシンブルース【電子特典付き】 四畳半シリーズ (角川文庫)

 ひさしぶりに映画館にいって、『四畳半タイムマシンブルース』をみました。以下、感想。

 京都にあるとされる古びた下宿、下鴨幽水荘。そこの四畳半に住む「私」は、かつて住民が勝手に設置したというエアコンの恩恵に浴していた。しかし、不毛なやりとりのすえ、エアコンのリモコンにコーラがかかって壊れてしまい、四畳半は灼熱の地獄と化す。そんな折、下宿の一角からいかにもタイムマシンらしき物体が発見され、四畳半から時をかけ、そして宇宙の存亡をかけた騒動が巻き起こる。

 森美登美彦による『四畳半神話大系』のスピンオフというべきか、上田誠による戯曲『サマータイムマシンブルース』のパロディというべきか、ようわからんが、『四畳半』の愛すべきキャラクターたちによって再演される『サマータイムマシンブルース』。ルックは湯浅政明監督による傑作テレビシリーズ『四畳半神話大系』とほぼほぼ共通で、監督は同作で絵コンテ・演出等をつとめた夏目真悟。キャラクターに声を吹き込むのも、ほとんど同じ面々。改めて、浅沼晋太郎吉野裕行ははまり役だったとつくづく感じる。

 原作の森美の、といえばいいのか、『神話大系』に続いて脚本を務めている上田のそれなのか判然としないが、文語調で滔々とまくしたてるモノローグの魅力は健在で、『神話大系』のパラレルな世界として違和感なく立ち上がっているのがえらい。「四畳半紀」のなかで「私」が迷い込んだかもしれない可能性の一つとして、(原作者が同じだからこういう言い方は適切でないんだろうが)ここちよい二次創作感がある。筋は『サマータイムマシンブルース』とおんなじだが、それがここまで四畳半世界になじむとは。

 一方で、先般亡くなった藤原啓治の不在が、ルックと役者共に共通しているがゆえに、強い印象を残しもする。『夜は短し』に続いて樋口役を務める中井和哉が悪いわけではまったくない。むしろ中井が藤原に寄せようとしているその努力もまた、さらに藤原の不在を我々に強く示してしまっている気がするのだ。

 結部で漂う、夏の終わり、ひいては青春の終わりのもの悲しさもあいまって、そのことを強く意識したりした。最後にこの冒険を総括する明石さんの言葉は、『四畳半神話大系』がそうだったように、「僕たちの現在」をささやかに祝福し、肯定するものだ。そうして過ぎ行くときのなかで、遠く離れてしまったもの、その手触りがこの映画のなかにある。ぼくにとってこの映画は、そうした奇妙なかたちで駆動するタイムマシンだったのかもしれない。

 

関連

 帰宅してから再見しましたが、『四畳半神話大系』、疑いなく傑作ですね。10年の時などものともしない、素晴らしい作品ですよ。

amberfeb.hatenablog.com

 

amberfeb.hatenablog.com