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神話とリアリズム――『ノースマン 導かれし復讐者』感想

ノースマン 導かれし復讐者 - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks映画

 今年の劇場初鑑賞は『ノースマン 導かれし復讐者』でした。以下、感想。

 10世紀、北大西洋。国王であった父を叔父に殺害され故郷を追われた少年、アムレートは、長じてヴァイキングの一団に加わり、各地を荒らしまわっていた。そんな折、叔父もまた国を追われ、アイスランドで羊飼いとして生きていることを知る。アムレートは奴隷になりすまし、叔父のもとに潜入する。父の仇を討ち、母を取り戻すために。

 シェイクスピアの『ハムレット』の着想もとになったという伝説上の人物、アムレートの物語を、『ライトハウス』のロバート・エガース監督が映画化。主演はアレクサンダー・スカルスガルド。筋骨隆々の寡黙な男を演じるその無骨な佇まいは、まさしくこの映画を象徴している。やわな美少年が国を追われて数年後にはこの殺戮マシーンに変貌しているのだが、それに有無をいわさぬ説得性を与える、容赦ない略奪のシークエンスに背筋が寒くなる。

 その場面に端的にあらわれているように、肉が裂け血しぶきが飛ぶ暴力描写は生々しいが、一方で魔女や不可思議な存在もまた画面上にあらわれ、ある種のマジックリアリズム的な調子がある。きわめてシンプルな筋立ても含めて、ある種の神話的な雰囲気が全編を覆う。

 一方で、宗教的な儀式の背景にあるのが植物やアルコールによる幻覚の一種のようにもおもえる描写もなされ、また母親をめぐるドラマは神話的な骨格に冷や水を浴びせるような現代的な感覚で構築されているような感じがあり、それらがこの映画の味わいを奇妙なものにしている。それはネガティブな意味ではなく、それがこの映画の味なのだ。