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映画の歓声、リアルの陥穽——『RRR』感想

RRR の映画情報 - Yahoo!映画

 『RRR』をみました。すごいですね、これは。以下、感想。

 1920年インド亜大陸は英国領インド帝国によって統治され、英国人が横暴の限りを尽くし、土着の住民たちは苦痛にあえいでいた。森の奥に住むゴーンド族もまたその圧政の犠牲となり、村の少女が、総督夫妻のきまぐれで、無慈悲にデリーに連れ去られる。一族の「羊飼い」として村人を守る使命をおった男、ビームは、仲間とともにデリーに潜入し、奪還のために情報収集と下準備に励んでいた。そんなおり、偶然遭遇した列車事故から少年を救うために協力した縁で、ビームは好漢ラーマと友誼を結ぶ。ビームは知る由もなかった。ラーマが、帝国から「ゴーンド族からの刺客」を逮捕する使命を帯びていたことを…。

 イギリス統治下のインドを舞台に、二人の好漢の友情と対決を描く。監督は『バーフバリ』のS・S・ラージャマウリ。二人の主人公は尋常でないほど強靭な肉体をもち、悪しき帝国の犬どもはバシバシとなぎ倒し、踊ってみれば華麗なステップと躍動する身体で淑女たちを容易く魅了する。この映画で、この二人に匹敵する存在は絶無。圧倒的なヒーロー映画である。この現実離れした最強の二人が実在の人物をモデルにしているというのだから、なんというか懐の深さに驚くばかりである。日本だったら若き大塩平八郎の知られざる活躍を描く!とか、そういう感じか?そういえばアメリカには『リンカーン/秘密の書』があったね。だからどうした。

 この二人の最強ぶりを描くためであれば、アクションシーンにおけるリアリズムなどははなくそぐらいにしか考慮されていなくて、クライマックス近くの森での戦闘とか、二人と敵との位置関係は「撮りたい画」を撮るために融通無下に瞬間移動するし、明らかにアクション映画的なリアリズムはここにはない。ミュージカルではないんだけど、舞台をころころ転換させてミュージカル的・ミュージックビデオ的な「つくりもの」感が生じることに一切のためらいがない。敵との駆け引きとか、そういうことで緊張感を発生させる作劇ではないのだ。そういうものが一切求められていない、ただ英雄に喝采したいという気持ちで、この映画がつくられた土地の人は映画館にいくのだろう。たぶんわたしたちはそういう楽しみにあんまり慣れていないがゆえに、この映画に驚かされるんだと思う。

 スローモーションをばりばりに使ったアクションシーンや、記号的という形容がまさにあてはまるだろう、俳優の喜怒哀楽のわかりやすさ等、半端な映画だったら「ださい」と形容されても仕方ないであろう演出の数々も、なんのてらいもなく、これがおれたちの映画なのだと堂々と主張されると、そうしたリアリズムの文法によりかかったツッコミが野暮なものでしかなくなる。

 とにかく、いかに自分が狭い範囲の「お約束」が通じる映画しかみていないか思い知らされる、ほんと、楽しい時間でした。