このところ月曜日の『週刊少年ジャンプ』を心待ちにして日々を過ごしていて、それは間違いなく『呪術廻戦』のせい。これほど月曜日が楽しみだったのは『喧嘩稼業』の入江文学対櫻井裕章の対戦中くらいなもんですよ。
ここ数か月は、ついに封印から解かれた最強・五条悟と、主人公である虎杖悠仁の身に宿っていた(そしていまは友人・伏黒恵の身体を乗っ取っている)呪いの王、両面宿儺との決戦が描かれており、今週いよいよ(仮初である気もするが)決着をみた。
ちょうど、アニメも2期目が放映中、そして奇しくも五条悟の過去を描く「懐玉・玉折」編がちょうど描かれていて、長いブランクを経て漫画でもアニメでも、この最強の男の最強ぶりを堪能できた。アニメは1期も作品のターニングポイントとなり、そして芥見の筆も乗りに乗っていた「渋谷事変」編の進行中であったが、アニメ放映のタイミングと原作漫画の盛り上がりが重なる幸運(あるいは作者の狙い通りなんだろうか?さすがに超絶技巧すぎる)に恵まれるこの作品は、やはりなにか「持ってる」のだろうと思わされる。
さて、原作漫画で描かれた五条対宿儺は、芥見下々という作家の「書きたい」ことを、それを説得的に描き出す技巧とが見事に実現させたきわめて幸福な時間だったといっていい。いままでこの男さえ戻ってくれば戦局は一変するはずと信じられてきた最強の男と、これまで対峙するものたちをいともたやすく屠ってきた、作中最後の敵にふさわしい風格を持つ呪いの王。作中で力の頂に君臨するこの二者の戦いは、それにふさわしく、これまで描かれてきたさまざまな呪術にまつわる技術を総動員し、それを自由自在に操れるがゆえにこの男たちは最強なのだと私たちに教えた。そして無残に破壊される新宿のビル群のもたらす快よ!この9月11日に、新宿に呪術の奥義でもって「グラウンド・ゼロ」が刻まれるのは、狙ってやったのだとしたらあまりにうますぎる。
現代最強の呪術師を相手取る呪いの王もまた準備に一切の抜かりなく(このあたりの戦いぶりでややネタになってもいたが、芥見という作家が最強を相手取るのに段取りを整えてみせた誠実な周到ぶりを賞賛すべきだと思う)、「十種影法術」を駆使してじわじわと優位な状況を作り出していった手際はお見事だった。
領域展開「伏魔御厨子」で五条を血みどろにした大ゴマの大迫力、そして勝利を確信した宿儺の「じゃあな最強 俺がいない時代に生まれただけの凡夫」という(呪いの王が一生懸命考えていたことが相当の味わいのある)名台詞といい、印象に残る場面がいくつも目に焼き付いていて、この数か月は『呪術廻戦』という作品のハイライトになるにちがいない、と思う。一方で、ここから虎杖くんの物語をふたたびはじめるには相当の力技が必要とも思うんだが…。
「五条の勝ち」をうたい上げた今週の結部を信じられるのは読者のうち相当限られた人だけとも思うが、この勝ちの宣言はこの漫画の参照先の一つである『喧嘩稼業』の梶原修人対工藤優作の偽りの決着と機能的に等価なのだろうと思う。だとすれば、もっとコマを大胆に使って五条の勝利を印象付けてほしかったという気もするが(だってみんな梶原さん絶対勝てないはずなのに勝ったっておもったでしょ、すくなくとも僕は思った)。
しかし宿儺は伏黒の身体を人質にとってなんとか退却するのか?それともまだ全容の開示されていない術式で「奥の手」が放たれるか?はたまた受け取った形見が五条を再起不能にするか?いずれにせよ、この最強の男が元気なうちは虎杖の話がはじまんねーと思うので、どうするんでしょうね。素朴に楽しみ。