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みえない制約について────小川哲『火星の女王』感想

火星の女王

 小川哲『火星の女王』を読んだので感想。

 2125年。人類が火星に住み始めて40年が経過したが、火星の資源の利用は思ったよりも進まず、火星から地球への帰還計画が進行していた。そんななか、宇宙人の存在を求めて火星に移り住んだ元科学者、リキ・カワナベは、火星でしか採取できない物質、スピラミンがある特異な性質をもつことを発見する。これを奇貨として、火星の大企業のCEO、ルーク・マディソンは陰謀をめぐらし、地球に「旅行」に行こうと計画していた盲目の少女、リリは思わぬ事態に巻き込まれることになる。

 『地図と拳』で直木賞を得た作家の、現時点での最新作。2025年末にはドラマも放映されたが、もともとドラマ化ありきで企画された小説のようだ。

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 おそらくそうした成り立ちがそうさせたのだろうが、小川がこれまで手掛けてきた『ゲームの王国』や『地図と拳』のようなヘビー級の長編や、『嘘と正典』の収められた才気煥発の短編とはまた異なった読み味の小説になっている。この、ドラマの企画として出発したという経緯を知らずに読んだのだが、読み終えてそれを知った今、この小説のどうにもミニマルな感じというか、ある種の窮屈さのようなものは、その出発点からもたらされたものだったのかという納得感があった。

 “映像化を意識せず、自由に書いてください”とNHK側から要請があった一方で、小川自身は「宇宙でミサイルを撃ち合うようなシーンは現実的に映像化できないだろうと思ったので、そうした要素は最初から選択肢から外していました」と述懐しているように、意識的にか無意識的にか、テレビドラマの画作りであり得るような展開にお話が制約されているような気がして、それが小説としての自在感を大いにそいでいるという感じを強くもった。

 「女王」をタイトルに冠しているあたり、ロバート・A・ハインラインによるSFの古典『月は無慈悲な夜の女王』を想起するが、アメリカ独立革命の再話のごとき同作と比べると、この『火星の女王』は微温的な着地をみせ、そのあたりの中庸さは小川という作家のバランス感覚を示しているとも思うが、イーロン・マスクを彷彿とさせる企業家ルーク・マディソンをもっとドラスティックに動かしたほうが、よりアクチュアリティを感じさせるドラマになったのではないかという気もしている。

 

 ドラマのほうは、Twitterで流れてきた感想を見る限りはあまり評判が芳しくないようだけれど、プライムビデオで配信しているようだし、気が向いたらみるつもりです。