5月は、よかったです。
先月の。
印象に残った本
特に印象に残っているのは、古田徹也『言葉の魂の哲学』。よい本です。いまは同著者の『それは私がしたことなのか』を読んでいます。こちらも大変勉強になります。
ほか、ブログに書きました。
読んだ本のまとめ
http://amberfeb.hatenablog.com/entry/2018/04/30/000000
2018年5月の読書メーター
読んだ本の数:22冊
読んだページ数:5443ページ
ナイス数:297ナイス
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■グランド・フィナーレ (講談社文庫)
全てを失ったロリコン男の再生の徴。まなざすことの暴力性と不可能性の小説だった『シンセミア』をタイトに変奏したかのような表題作は、タイトであるにもかかわらず『シンセミア』のようなある種の娯楽映画的な調和が破られていて、それが奇妙な味わいになっている、気がする。
読了日:05月01日 著者:阿部 和重
https://bookmeter.com/books/548265
■道化師の蝶 (講談社文庫)
行く先々の言語を習得し作品を残していく正体不明の作家と、発想を捕まえる銀の網を手にそれを追う者。鴻巣友季子の解説が見事に読解の補助線を引いていて歯ぎしり。
読了日:05月03日 著者:円城 塔
https://bookmeter.com/books/9045627
■至高聖所(アバトーン)
大学で出会った少女たちと眠りの物語である表題作と、中学教師が落ちこぼれの男子生徒を媒介に旧友の記憶を再訪する「星の指定席」所収。表題作は筑波大という人工的で冷たい環境が奇妙なリアリティをもって書かれているのだが、それが最後に夢幻の世界に逢着するのが奇妙な味わい。言葉にならないこと、言葉にされるのを拒否することどもをなんとか書こうとする意思、それがよい。
たぶん多くのおたくの琴線に触れるのではなかろうかと思います。
読了日:05月07日 著者:松村 栄子
https://bookmeter.com/books/49685
■逃亡くそたわけ (講談社文庫)
精神病院から逃げ出した女と男が、九州を南へ、逃げる、逃げる。九州縦断ロードムービーとしてただ楽しく、しかしその影につきまとう内なる声、「亜麻布20エレは上衣一着に値する」の恐ろしさ。おそらく病の経験がベースになっているのだろうと思われる病の恐怖と投薬による感覚の変容のリアリティ。それを彩る九州の/名古屋の/あるいは規格化された言葉たちのリズム。めちゃくちゃ面白く読みました。
読了日:05月08日 著者:絲山 秋子
https://bookmeter.com/books/576697
■インストール (河出文庫)
登校拒否を決断した女子高生は、偶然出会った同じマンションにすむ小学生と組んでチャットレディのバイトを始める。インターネットや性風俗といった新奇な(2018年の今はその新奇さがわからなくなってる気もするけど)モチーフは、いま・ここにいる私の悩み、特別な存在であることの希求と自負、それと裏腹のあからさまに陳腐な人生への倦怠、こうした現代の青年期における「ありふれた悩み」の類型を類型的でなく語るための道具なのだなという気がする。現代の青年期を扱ったフィクションは、あきらかに綿矢の後裔。たぶんきっと。
読了日:05月09日 著者:綿矢 りさ
https://bookmeter.com/books/554438
〈どんでん返し〉の科学史 - 蘇る錬金術、天動説、自然発生説 (中公新書)
- 作者: 小山慶太
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2018/02/21
- メディア: 新書
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■〈どんでん返し〉の科学史 - 蘇る錬金術、天動説、自然発生説 (中公新書)
錬金術、天動説、自然発生説、計れない物質という一度は近代科学の前に否定されてきたものが、違う仕方で回帰する「どんでん返し」を科学史のなかに読む。単に単線的な進歩ではない科学史を提起することが著者のねらいっぽい。それはともかく、ニュートンの手稿をケインズが落札して論文まで書いてたとは知りませんでした。
読了日:05月09日 著者:小山 慶太
https://bookmeter.com/books/12638487
- 作者: 森見登美彦,くまおり純
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2012/11/22
- メディア: 文庫
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■ペンギン・ハイウェイ (角川文庫)
小学4年生の男の子が、歯科女子のお姉さんと彼女を取り巻くペンギンと海の謎を探検する。漢語調の語りや変人大学生が取り払われ、小学生的全能感に満ちた語りはおもしろいんだがやや刺激に欠け退屈にも感じられたが、運命の女を通して新たな世界に踏み出すという構図は『太陽の塔』以来のモチーフの別様なかたちでの反復であり、そこにある種の森見らしさを見出すことは難くない。ペンギンどもの織りなす幻想的なイメージ群はたいそうアニメーションに映えるのではないかという気がするので、楽しみに待ってます。
読了日:05月11日 著者:森見 登美彦
https://bookmeter.com/books/5586115
■ひとり空間の都市論 (ちくま新書)
都市にあふれる「ひとり」の群れ。それを受け入れるインフラの現況と可能性を探る。冒頭の『孤独のグルメ』読解から都市の人間のエートスの変容を剔出する手際は見事。メタボリズムはこういう形で勝利したのだなあと。図書館の返却期限が迫っていて流し読みになってしまったのだけど、またちゃんと読みたいです。
読了日:05月14日 著者:南後 由和
https://bookmeter.com/books/12504659
■無情の世界 (新潮文庫)
ストーカーが伝染し連鎖する「トライアングルズ」、日常に侵入する性と死を書く表題作、乾いた暴力が小気味よくリズムを刻む「鏖」の三編を所収。やはり阿部和重はまなざしとその敗退の作家です、きっと。
読了日:05月14日 著者:阿部 和重
https://bookmeter.com/books/546292
スポーツ国家アメリカ - 民主主義と巨大ビジネスのはざまで (中公新書)
- 作者: 鈴木透
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2018/03/20
- メディア: 新書
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■スポーツ国家アメリカ - 民主主義と巨大ビジネスのはざまで (中公新書)
アメリカにおける近代スポーツの勃興と展開、そして現在を、民主主義と資本主義という近代社会の骨格ともいうべきものと重ねつつ概説する。「アメリカ型競技は、適正な競争、公正なアクセス、成果の最大化という、民主主義と資本主義の両立き必要な三要素」(p.22)を核として彫像されたのだ、という見立てに唸り、そして金ぴか時代の社会改良の機運を吸って形成されたスポーツが、現代において再び資本主義の鉄の檻に呪縛されつつあるという皮肉。大変面白く読みました。
とりわけ印象的だったのは、アメリカンフットボールはその黎明期に時間と暴力の制御を課題としており、そして時間の管理は同時代のテイラーシステム的な発想と親近性があるのだという見立て。スポーツのルールは成立した時代の空気を吸っているのだという、スポーツの見方をまた一つ教えてもらったなあという感じです。
読了日:05月16日 著者:鈴木 透
https://bookmeter.com/books/12701922
誰も語らなかったジブリを語ろう (TOKYO NEWS BOOKS)
- 作者: 押井守
- 出版社/メーカー: 東京ニュース通信社
- 発売日: 2017/10/20
- メディア: 単行本
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■誰も語らなかったジブリを語ろう (TOKYO NEWS BOOKS)
スタジオジブリの全作品を語りに語る。舞台裏の話を交えつつ、時に真摯に作品論を展開してみせる語りの奔放さがとにかく楽しい。語りのトーンは遠慮なしに批判的なのに、なぜか奇妙に作品たちを再見したくなるのは、決してスタジオジブリの作品群が比類なき傑作揃いだから、というだけではないでしょう。
読了日:05月16日 著者:押井 守
https://bookmeter.com/books/12392750
■真実の10メートル手前 (創元推理文庫)
真実の10メートル手前。それは彼女が佇む場所の別名。『さよなら妖精』の長い影のなかを歩く太刀洗万智。10メートル手前にありながら、あることを引き受けながら、しかしそれでも彼女は戦う。たとえその勝利が「運が良かった」が故にもたらされるものでしかないとしても。
読了日:05月17日 著者:米澤 穂信
https://bookmeter.com/books/12656053
■墨攻 (新潮文庫)
弱小の小さな城に派遣された墨家が、城を率いて獅子奮迅の活躍をみせる。凄腕の軍事顧問率いる民草が決死の抵抗を行う、という構図はどことなく『七人の侍』的であり、しかし墨家の革離はあからさまな独裁者として立ち現れる。職人的独裁者の栄光と蹉跌。
押井守監督・スタジオジブリの座組でアニメ映画化される企画があったのだけどぽしゃった、と本人が語っていたので再読。押井版だったら革離は後藤隊長的昼行燈になるか、もしくは独裁者=映画監督の映画になっていたのか、気になります。
読了日:05月19日 著者:酒見 賢一
https://bookmeter.com/books/538400
■建築・都市ブックガイド21世紀 (建築文化シナジー)
建築史からミステリまで、都市と建築にかかわる書籍を幅広く紹介。筆がポストモダン的に滑ってる箇所が散見され気の毒になったが、勉強させていただきました。
読了日:05月20日 著者:
https://bookmeter.com/books/355123
■五日市憲法 (岩波新書)
学生時代、ゼミの活動の中で開かずの蔵から偶然にも「五日市憲法」を発見した著者が、自身の研究の足跡とともにその意義を語る。五日市憲法が歴史上に大きな意義を持つことが発見した当時にはすぐ理解できなかったこと、それを起草した千葉卓三郎がいかなる人物なのか全く知られていなかったことなど、なるほどなーという感じ。著者の研究人生のある種の総括っぽい雰囲気がありました。
読了日:05月20日 著者:新井 勝紘
https://bookmeter.com/books/12782993
- 作者: 米澤穂信,上杉久代,清水厚
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2001/10/28
- メディア: 文庫
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■氷菓 (角川文庫)
ベナレスからイスタンブールを経て、プリシュティナ、そしてサラエボへ。存在しない国へと向かう旅路は偽史的想像力の微かな空気をまとうが、それは成就されなかった作家の可能性でもある。書かれたかもしれないもう一つの「さよなら妖精」。その感覚はもしかして「クドリャフカの順番」に残響のようにこだましているのかも。
読了日:05月21日 著者:米澤 穂信
https://bookmeter.com/books/580078
- 作者: 米澤穂信,高野音彦,清水厚
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2002/07/31
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■愚者のエンドロール (角川文庫)
「必要な技術のない人間にはいい仕事はできない」。しかし、技術をもった善人どもはいとも容易く他者の願いを踏みにじる。偶然と誤配とに取り巻かれた事件にあって、他者の顔を回復しようとした愚者だけが真のエンドロールへと到達し、しかしそれでも真実は顔もわからぬ他者のうちに留まり続ける。ここで探偵的なるものの蹉跌が描かれたことは、シリーズ全体にある種の陰影を与えた。そのことが彼らの生きる場所に真に迫った深みを与えたことは今更言うまでもなかろう。
読了日:05月22日 著者:米澤 穂信
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■ミネルヴァの梟は黄昏に飛びたつか?―探偵小説の再定義
90年代末に書かれたミステリ論。20世紀思想の文脈で本格ミステリを捉えるのが笠井の論の中心なのだと思うのだが、なるほどなーという感じ。京極夏彦や森博嗣らの登場で、キャラクター性に惹かれる読者が増えてタコツボ化が進行したみたいな話が印象的。
読了日:05月23日 著者:笠井 潔
https://bookmeter.com/books/446430
- 作者: 米澤穂信
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2008/05/24
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■クドリャフカの順番 (角川文庫)
この傑作を補助線として、『氷菓』と『愚者のエンドロール』もまた、学校という場を舞台にした特別さを賭けたゲームをめぐる物語だったのだし、また「読まれなかった本」(それは「氷菓」創刊号であるし、無題のミステリーでもあり、無論「クドリャフカの順番」でもある)についての物語でもあったことが鮮明になる。読まれなかった本、届かなかった言葉、そうしたものに満ちた誤配と偶然性の空間、そこにおいて探偵の条件は運に恵まれることなのであり、その自覚こそが探偵を探偵たらしめる。
読了日:05月24日 著者:米澤 穂信
https://bookmeter.com/books/580067
■言葉の魂の哲学 (講談社選書メチエ)
言葉が「生きた」ものに感じられる。あるいは「死んだ」ように実感を伴わないものとして感じられる。その境界にあるものの輪郭を、ウィトゲンシュタインおよびカール・クラウスの言語論の検討を通して明らかにし、また言葉と我々の間の緊張関係、そこにあるべき倫理を立ち上げる。言葉を多面体として捉えることが、言葉にある種の実態を与えるのであり、また言葉の使用を通してこそ、我々の思考は形を成す。短絡的な常套句ではなく、その都度「迷い」ながら言葉を選んでいくこと。あまり意外性のない、故に苛烈なこの倫理がずっしり腑に落ちる。
読了日:05月26日 著者:古田徹也
https://bookmeter.com/books/12894208
■日本の公教育 - 学力・コスト・民主主義 (中公新書)
日本の公教育の歴史、現状、課題を、各国の状況との比較や教育社会学の知見を活かして整理する。規範的な議論というよりは現状の把握を目指した手堅い議論が展開されていて、これはちょっとおろそかには読めんぞという感じでした。図書館で借りてざっと目を通す感じになってしまったのだが座右に置いてちゃんと読みます。
読了日:05月28日 著者:中澤 渉
https://bookmeter.com/books/12701921
- 作者: 米澤穂信
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2010/07/24
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■遠まわりする雛 (角川文庫)
遠まわりする雛。短編中の千反田にかかるこの言葉が、幾重にも意味を帯びこの短編集全体を統御するのがお見事。ゆるやかに、しかし同時に確かに過ぎ行く月日と、そのなかでたゆたいつつ移ろっていく人たち。雛というモチーフに彼女と彼の姿を託したその目線はあまりに優しく、しかし彼女が「鳥籠」を意識する未来をすでに知る我々からみれば、隠しきれない残酷さが宿ってもいる。とはいえ、遠まわりしつつも歩いてゆく、そのストライドの一つ一つを、我々は祝福してもよいだろうと、思う。
読了日:05月29日 著者:米澤 穂信
https://bookmeter.com/books/610551
近況
何度も立ち上がる―― 『モリーズ・ゲーム』感想 - 宇宙、日本、練馬
うつくしい彼岸の幸福――『ファントム・スレッド』感想 - 宇宙、日本、練馬
映画はあまり見れませんでしたね。
あいかわらず『リズと青い鳥』はみました。
5月は北海道旅行に行ったんですけど、また行きたいですね、どこか遠くに。
来月の。