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いま・ここで再び空想すること——『シン・ウルトラマン』感想

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 『シン・ウルトラマン』をみました。以下感想。

 日本列島、現代。「禍威獣(カイジュウ)」と名付けられた巨大な生物が日本列島に突如出現するようになり、たびたび甚大な被害をもたらすようになった世界。新設された防災庁のもと、禍威獣特設対策室専従班、通称「禍特対(カトクタイ)」は「禍威獣」対策に奔走していた。5体目の「禍威獣」、電気を喰らう化け物に苦戦し、なすすべなしかと思われたその時、空から巨人が飛来する。「禍威獣」を難なく退けて飛び去ったその巨人を、政府は「ウルトラマン」と名付けた。巨人のもたらすものは、福音か、禍か...。

 『シン・ゴジラ』に続く、庵野秀明樋口真嗣らによる古典的特撮もののリブート。演出のトーンは『シン・ゴジラ』を継承しているといってよく、官僚組織で繰り広げられる丁々発止のやりとりを奇抜なアングルを目まぐるしく切り替えて映してゆく手際は、編集にクレジットされている庵野秀明の署名だろう。固有名詞や専門用語を早口で連発し、その発話内容がかならずしも理解できなくても物語の筋を追うのに差し支えないあたりも同様。こうして別の作品において見事に応用されているのをみると、『シン・ゴジラ』はエポックな発明だったのだなと思い知らされる。

 とはいえ、言うまでもなく『シン・ゴジラ』との差分も明確に存在している。『シン・ゴジラ』においては、内閣を頂点とする国家組織の運動のダイナミズムが異常な事態と相対するさまを主題として「ニッポン対ゴジラ」という構図が前景化していたのに対して、この『シン・ウルトラマン』ではそうした国家組織の運動は後退し、そのなかの一部局―—「霞が関の愚連隊」と自嘲する「禍特対」の5人の活躍が焦点化される。

 この「禍特対」は『シン・ゴジラ』の「巨災対」を想起させもするが、「巨災対」は人数も多くそれぞれの名前もそれほど強調されなかったのに対して、「禍特対」は5人という少人数ゆえか各人のパーソナリティの描写もやや多い。これは『ウルトラマン』の科学特捜隊の描写への目配せかと思うのだが、描写の少なかった「巨災対」のほうが(高橋一生市川実日子津田寛治ら俳優の存在感によるところも大きいだろうが)スマートにキャラ立てがされていて、「禍特対」の面々のパーソナリティの色付けはややわざとらしかったかな、とも思う。どちらも『パトレイバー』の特車二課みたいな、マンガちっくな存在ではあると思うので、見せ方の問題だと思うのだけれど...。

 そして、より決定的な差異は主題と問いの水準にもある。『シン・ゴジラ』が強烈な印象を残したのは、庵野秀明的な演出の手法以上に、あからさまに東日本大震災の経験を参照し、「いま・ここで我々がこの異常な存在に向き合うとはいかなることか?」ということを問うた、そのアクチュアリティにあるだろう。この『シン・ウルトラマン』は、アーサー・C・クラークの古典的SF小説、『幼年期の終わり』を彷彿とさせるような、ファースト・コンタクトものの骨組みを援用し、ウルトラマンという存在を現代的な映画のなかに登場させる舞台装置を用意したようにみえた。

 そうした古典的な枠組みの援用は、ウルトラマンという存在を普遍化し現代映画の物語のなかに組み入れる際に大きな意味があったとも思うし、昨年日本語でも結部まで翻訳された劉慈欣『三体』が、ファースト・コンタクトものという枠組みのなかでまったく途方もない物語を語り切った作品だったことを想起すれば、それがすなわちアクチュアリティの後退につながるというわけでもないのだろうが、すくなくとも『シン・ゴジラ』に比して、いま・ここのわたしたちにウルトラマンという存在が何を問いかけうるのか、という問題意識は希薄だったようにも思え、それがわたくしなどには大きな食い足りなさを残したことも事実なのだ。

 アクチュアリティがあるほうがえらいとか、そういうことではないのだが、幼いころにみた夢をあえていまつくりなおすという営為のなかに、わたしたちにとってのいま・ここと、その夢とが緊張関係を結ぶことでみえてくる「なにか」が見出されていてほしいのだ。それが空想をより長く、遠いところまで運んでいく可能性を拓くんだから。

 

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【スタッフ】
2022年/日本
製作代表 - 山本英俊

製作 - 塚越隆行、市川南、庵野秀明
共同製作 - 松岡宏泰、緒方智幸、永竹正幸、
企画 - 塚越隆行、庵野秀明
脚本 - 庵野秀明
作監修 - 隠田雅浩
エグゼクティブプロデューサー - 臼井央、黒澤桂
プロデューサー - 和田倉和利、青木竹彦、西野智也、川島正規
協力プロデューサー - 山内章弘
ラインプロデューサー - 森賢正
プロダクション統括 - 曾田望
撮影 - 市川修、鈴木啓造
照明 - 吉角荘介
美術 - 林田裕至、佐久嶋依里
編集 - 栗原洋平、庵野秀明
VFXスーパーバイザー - 佐藤敦紀
ポストプロダクションスーパーバイザー - 上田倫人
CGアニメーションスーパーバイザー - 熊本周平
録音 - 田中博信
整音 - 山田陽
音響効果 - 野口透
装置設計 - 郡司英雄
装飾 - 坂本朗、田口貴久
アクションコーディネイター - 田渕景也
スタイリスト - 伊賀大介
ヘアメイク - 外丸愛
コンセプトデザイン - 庵野秀明
デザイン - 前田真宏、山下いくと、竹谷隆之
VFXプロデューサー - 井上浩正、大野昌代
VFXディレクター - 佐々木悟
CGスーパーバイザー - 伏見剛
コンポジットスーパーバイザー - 小林晋悟
キャラクターモデリングスーパーバイザー / CGディレクター - 上西琢也
CGIアートディレクター - 小林浩康
カラーグレーダー - 齋藤精二
キャスティング - 杉野剛
スクリプター - 田口良子
助監督 - 中山権正
製作担当 - 岩谷浩
宣伝プロデューサー - 中西藍
光学作画 - 飯塚定雄
音楽 - 宮内國郎鷺巣詩郎
主題歌 - 「M八七」(Sony Music Labels
作詞・作曲・歌 - 米津玄師 / 編曲 - 米津玄師、坂東祐大
音楽プロデューサー - 北原京子
音楽スーパーバイザー - 鳥居理恵
ウルトラマン / 禍威獣 / 外星人 オリジナルデザイン - 成田亨
監督補 - 摩砂雪
副監督 - 轟木一騎
准監督 - 尾上克郎
総監修 - 庵野秀明
監督 - 樋口真嗣
配給 - 東宝
出演
神永 新二 - 斎藤工
浅見 弘子 - 長澤まさみ
滝 明久) - 有岡大貴
船縁 由美 - 早見あかり
田村 君男- 西島秀俊
宗像 龍彦 - 田中哲司
小室 肇 - 岩松了
大隈 泰司 - 嶋田久作
狩場 邦彦 - 益岡徹
中西 誠一 - 山崎一
政府の男 - 竹野内豊
内閣官房長官 - 堀内正美
利重剛
早坂 - 長塚圭史
加賀美 - 和田聰宏
小林勝也
塚本幸男
赤堀雅秋
ヨシダ朝
久松信美
國本鍾建
キンタカオ
横田栄司
大場泰正
屋敷絋子
島津健太郎
鍛治直人
日比大介
西原誠吾
平原テツ
中野順一
村上新悟
真田幹也
粕谷吉洋
細川洋平
吉田亮
森優作
井上雄太
宮崎翔太
TERU
村本明久
宮田佳典
藤竜也
イワゴウサトシ
西泰平
荒木貴裕
山中良弘
長谷川直紀
志賀龍美
豊田温大
岡崎奈々
稲田恵司
有沢雪
杉原枝利香
堀田祥子
本多陽登
細井鼓太
大山蓮斗
寺内勇貴
下澤実礼
生沼佳恋
加藤千尚
中村尚輝
中澤功
米元信太郎
白石和彌
福田伸之
多賀航太
本澤雄太
菊池大輝
池内偉剛
海老澤英紀
平山亨
小池剛太郎
しいたけを
大曾根亮
舞名圭
大友和彦
藤山ユウキ
駒水健
宮本憲治
藤谷聖徳
井手尾敦
酒井光男
岩瀬晃太
田邉健太
小野寺達哉
小野田せっかく
阿部太一
齊藤憲良
藤原政彦
常名泰司
長戸浩二
内藤信幸
古田裕之
湯田宗登
高橋一生
山寺宏一
津田健次郎
山本耕史