宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

2022年9月に読んだ本と近況

つかれの蓄積を感じる...。

先月の。

2022年8月に読んだ本と近況 - 宇宙、日本、練馬

印象に残った本

 一冊選ぶなら、『我は、おばさん』。

amberfeb.hatenablog.com

 

読んだ本のまとめ

2022年9月の読書メーター
読んだ本の数:16冊
読んだページ数:4476ページ
ナイス数:144ナイス

https://bookmeter.com/users/418251/summary/monthly/2022/9

 

国道3号線: 抵抗の民衆史
 九州を縦断する国道3号線。その周辺で生起した抵抗の動きを辿る。西郷隆盛宮崎滔天石牟礼道子谷川雁…。さまざまな人間の群像が九州というトポスと抵抗というモーメントからある大きな像を結んでしまうアクロバットがおもしろい。森の著作の中では相対的に文体はおとなしい。それもまた味。
読了日:09月06日 著者:森 元斎
https://bookmeter.com/books/16428100

 

■実話奇彩 怪談散華 (竹書房怪談文庫 HO 570)
 3人の著者による実話風怪談ショートショート集。全体としてインターネットでエンカウントしたらおもしろい水準だと思うが、語りのうまさが実話怪談のゴツゴツした感じを削いでいて、それは体験としてはマイナスだよなと感じる。インターネットの実話怪談の魅力はある種の下手くそさによって支えられているのかも…と感じました。
読了日:09月09日 著者:高田 公太,卯ちり,蛙坂 須美
https://bookmeter.com/books/19783698

 

■初歩からのシャーロック・ホームズ (中公新書ラクレ, 706)
 コナン・ドイルによる原作からカンバーバッチの『シャーロック』、また日本のソーシャルゲームまで、シャーロック・ホームズにかかわる文化とその周辺を概説する。さまざま出ている訳書の特徴なんかを整理してくれているあたりが特にありがたい。またパスティーシュへの目配りがきいていて、そこらへんはなるほどなと読みました。
読了日:09月10日 著者:北原 尚彦
https://bookmeter.com/books/16882235

 

海がきこえる (徳間文庫)
 ヒロインの造形が神かがり的に巧い。素朴な男たちのなんとも言えない味わい深さ。新装版の表紙が超かっけえ!がわたくしが読んだのは宮台真司の解説つきの古い版です。

読了日:09月11日 著者:氷室 冴子
https://bookmeter.com/books/575946

 

■平成転向論 SEALDs 鷲田清一 谷川雁
 SEALDsの限界と可能性を総括するため、鷲田清一の「転向」(と「非転向」)とをあとづけ、そして地方とエッセイストの倫理を立ち上げる。政治の言葉を日常生活の中に持ち込み、語り続けること。それを個人の実践でなく、組織を形成するような仕方で行うこと。「説得すること」がうざったいと思われようが、その居心地の悪さに対峙する粘り腰こそを求める、現場の矜持をここにみた。
読了日:09月13日 著者:小峰 ひずみ
https://bookmeter.com/books/1965025

 

追想五断章 (集英社文庫)
 亡き父が遺したらしい、五つのリドル・ストーリーを探してほしい。バブル崩壊後の世相を背景に、古本屋に居候する休学中の大学生が、奇妙な依頼を引き受けて奔走する。経済的な事情で青春を剥奪された青年を主役に据えた語りが、米澤穂信という作家がデビュー作以来の問題系の重力から離脱しようとする試みにも思える。過去の「真実」を追求することが必ずしも関係者を幸福にはしない、その厭な感じもまた自作への批評なのかもとも感じる。
読了日:09月15日 著者:米澤 穂信
https://bookmeter.com/books/4732319

 

海がきこえる〈2〉アイがあるから (徳間文庫)
 大学進学を機に上京した少年が高校時代を回顧するという語りの工夫があった前作と比べると、続編であるこちらの語りはだらっとした現在形で、その点やや平板かもしれない。刊行はバブル崩壊後だがそれほど暗い雰囲気はないが、携帯電話以前のコミュニケーションのあり方なんかはいま読むと強く時代を感じさせる。ある種の風俗小説としておもしろく読みました。しかし女性の登場人物たちの厭なかんじの生々しさはすごいですね。

 読了日:09月18日 著者:氷室 冴子
https://bookmeter.com/books/575947

 

■我は、おばさん
小説や漫画、映画などさまざまなフィクションを参照し、「おばさん」に肯定的な可能性を見出そうと試みる。「斜めの関係」から他者をエンパワーメントする存在としてあれ、という主張が力強い。

 読了日:09月18日 著者:岡田 育
https://bookmeter.com/books/17932444

 

■Qを追う 陰謀論集団の正体
 朝日新聞デジタルでの連載を元にした書籍化。noteで期間限定全文公開という太っ腹ぶりに甘えさせてもらいました。2ちゃんねるからアメリカに根を張る陰謀論への流れ、そしてその日本への波及…という流れを関係者へのインタビューをもとに跡付ける、大変おもしろい仕事でした。陰謀論の担い手として暗躍し、また下院議員選挙にも出馬したロン・ワトキンスの姿に、西村博之のありえたかもしれないオルタナティブをみた気になり、慄きます。
読了日:09月23日 著者:藤原 学思
https://bookmeter.com/books/20115117

 

■リカーシブル (新潮文庫)
 義理の母と弟とともに寂れた街に越してきた少女。見知らぬ土地で彼女を待っていたのは、未来を見通す目を持つ少女の伝承。デビュー作の『氷菓』、あるいは『ボトルネック』で描かれた姉と弟の関係を別様に変奏し、憎らしいが守りたい、しかしそのことで利益を引き出そうとする打算も自覚する、また強い姉のありさまをかたちづくってみせた。寂れゆく場所への冷めた目線もこの作家のテクストに通底すると思うが、そういう意味でもおもしろく読みました。
読了日:09月23日 著者:米澤 穂信
https://bookmeter.com/books/9762712

 

西洋美術史入門・実践編 (ちくまプリマー新書)
 ルネサンス絵画やナポレオン像などなど実例を取り上げて、描かれた背景やその寓意、技法についてどのように探るかを解説する。とりわけおもしろく読んだのが、ナポレオン戦争第二次世界大戦での美術品の収奪とその(未)返還をめぐる話題。大英博物館が植民地時代の遺産で成り立っているのは知ってましたが、ルーヴル美術館もまたナポレオンのめちゃくちゃによって成立したんすね。
読了日:09月24日 著者:池上 英洋
https://bookmeter.com/books/7994081

 

■普請の顛末―デザイン史家と建築家の家づくり
 デザイン史の巨人、柏木博が自身の家をつくった際の記録。柏木ほど名の知られた書き手でも金銭的なところで妥協しなきゃいけなかったり、蔵書すべてを持ってったりできねえんだなあ…。しかし豪胆で繊細な家、まさしく贅沢ですなあ。
読了日:09月26日 著者:柏木 博,中村 好文
https://bookmeter.com/books/315067

 

■退屈な迷宮―「北朝鮮」とは何だったのか (新潮文庫)
 1980年代終わり頃、まだ謎めいた国、一部の日本人が理想を仮託する対象だった北朝鮮をはじめての日本人観光団として訪れた著者によるルポルタージュ。最初の旅行記は未知のものを恐る恐る触っていくような緊張感があるが、後半に置かれた標題のエッセイになると、それが薄れ、まさに退屈な場所としてたち現れてくる。朝鮮統一も遠くないのではないか、と本書が書いて30年余り。それがいかにしてなるか、わたくしごときには想像もつかない。
読了日:09月28日 著者:関川 夏央
https://bookmeter.com/books/221708

 

■ローカル線各駅下車の旅 (ちくま文庫)
 ローカル線で途中下車して温泉入ったりメシ食べたりするエッセイ。わたくし鉄道に別段の興味はないので全体として毒にも薬にもならん旅行エッセイだが、気仙沼線がでてくるとドキッとします。本書刊行は2007年。
 実際問題これ読むなら宮脇俊三どれか適当に手に取ればよかったなと思いました。
読了日:09月30日 著者:松尾 定行
https://bookmeter.com/books/311062

 

儚い羊たちの祝宴 (新潮文庫)
 米澤穂信がそのミステリマニアぶりを遺憾なく発揮した連作短編。古風な名家をめぐる挿話が連続する、ある種のキッチュなオールドファッションな感触が味わい深い。
読了日:09月30日 著者:米澤 穂信
https://bookmeter.com/books/3352855

 

「超」怖い話 壬 (竹書房怪談文庫 HO 563)
Kindle unlimitedで読んだ。そうでなければ強い憤りを覚えたであろう水準の低さ。素人の投稿レベルの怪談がずらずら並び、これならネットサーフィンで暇つぶししたほうがまだよいだろうと思った。
読了日:09月30日 著者:松村 進吉,深澤 夜
https://bookmeter.com/books/19646276


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近況

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