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退廃の都市、かなしみの果て——『サイバーパンク エッジランナーズ』感想

サイバーパンク エッジランナーズ

 Netflixで『サイバーパンク エッジランナーズ』をみました。TRIGGERという制作スタジオの、あるいは今石洋之という作家の代表作として語られることになるだろう、傑作です。以下、感想。

 未来、アメリカの西海岸にあるナイトシティ。きらびやかなネオンに彩られ、身体改造した傭兵たちが跋扈し、巨大企業体が住民たちの生活を支配する、退廃の都。せわしく働く母の期待を一身に背負い、大企業、アラサカの運営する学校に通う少年、デイヴィッド・マルティネスは、御曹司が幅をきかすそこで肩身の狭い日々を送っていた。そんななか、母が抗争に巻き込まれゴミのように殺され、デイヴィッドの世界は一変する。彼が選び取ったのは、偶然手に入れた人体改造デバイスを装着し、退廃と破滅の街の縁を疾走し、自身の存在を証明する道だった。

 大作ゲーム『サイバーパンク2077』のスピンオフを、ガイナックスの流れをくむTRIGGERがてがける。『天元突破グレンラガン』の今石洋之を監督に据え、キャラクターデザイン・総作画監督は『リトルウィッチアカデミア』の監督にしてスーパーアニメーターの吉成曜。ゲームという原作はあるものの、そこで躍動するキャラクターは大胆に記号的で、まさしく『天元突破グレンラガン』から『パンティ&ストッキングwithガーターベルト』、『キルラキル』との継続性を感じさせる、今石洋之という作家の刻印がしっかり刻まれている。とりわけ黒沢ともよ演じるトリガーハッピーの少女、レベッカはまさしく今石洋之のキャラという感じがして、それが作品世界と絶妙に調和しているバランス感覚がすばらしい。

 サイバーパンクSFアニメの金字塔といってもいいだろう『攻殻機動隊』シリーズ、とりわけ押井守監督による映画は、作品世界およびキャラクターの描画は硬質で、実写映画的なリアリズムを基盤に画面が構築されていた。この『サイバーパンク エッジランナーズ』においてもそうした方向性で制作する戦略はあっただろうが、しかしその文脈に乗るのではなく、あくまで今石の、あるいはTRIGGERのアニメとして制作することが選び取られたことは正しかった。容赦なく破壊される肉体、飛び散る鮮血のグロテスクさは記号化されたキャラクターと動作によって幾分緩和され、死屍累々の状況も悪趣味になりきらない。『プロメア』では酷薄にも感じられた名もない人間への乾いた目線は、この作品にこそふさわしいものであった。

 母の死をきっかけに人生が一変し、自身の精神と肉体をすり減らしながら運命の女、ルーシーのために戦うデイヴィッド。さながら走馬灯のように無数のカットが絶え間なく切り替わるオープニング映像のラストで予告されるよう、彼がたどり着くのは破滅であることはわかりきっている。だから、さながら『サイボーグ009』の加速装置のごとき威力を発揮するインプラントを武器に戦うデイヴィッドはじめ、身体改造したキャラクターたちのアクションは爽快だが、しかしそこに自身の魂をすり減らして戦わなければ生き延びることすらかなわない、そうした人間たちの悲哀がつねに付きまとう。

 このもの悲しさは、たとえば『ブレードランナー』の結部でレプリカントを看取ることになる我々の胸に去来するものと相通じるかもしれない。あるいは『天元突破グレンラガン』の結末、避けがたい別れを迎える時の心持でもあろうか。今石洋之という作家は、その作品のなかで躍動するキャラクターたちの放つ楽しさと裏腹に、こうしたどうしようもない悲しみをこそ、その核に持っているのかもしれない。

 終盤、仲間の裏切りにあい袋小路に追い込まれた少年たちは、精神と肉体の破滅を引き受け、最後の決死行へ向かう。さながら『明日に向かって撃て』やら『仁義なき戦い 広島死闘篇』などを想起する、破滅への道行き。強烈に強化された機械の身体で戦う少年の姿は無法な能力を発揮して敵を蹴散らしていくが、このクライマックスのアクションはそれが鮮烈であればあるほど悲しくなってくる、そういうシークエンスになっている。しかし全編を覆うこのかなしさを、少年と少女のボーイミーツガールのドラマへと物語を畳み込み、あとにはかすかな希望の手触りを残してこのアニメは終わる。ここに思想も教訓もなく、ただ浄化されたかなしみだけが残る。それが職人の仕事なのだと、この今石洋之という作家は語っている、かもしれない。

 

 

 

わたくしTRIGGERの作品では『リトルウィッチアカデミア』がベストだと思ってたんですが、この『サイバーパンク』を経た後だと、悩みますね。大いに。

amberfeb.hatenablog.com

 

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