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銃撃の記憶——『タクシー運転手 約束は海を越えて』感想

タクシー運転手 約束は海を越えて [Blu-ray]

 わかってはいましたが、なかなか2時間の映画を腰を据えてみるのは難しくなりましたね。いやはや。プライムビデオで配信が終わるというので『タクシー運転手 約束は海を越えて』をみましたが、なかなかどうして身が入らず...。まあそのうち適切な映画との距離感がつかめてくるでしょう。

 1980年におこった光州民主化運動(光州事件)を題材にしたこの映画は、民主化運動にまったくかかわりのなかったタクシー運転手(演じるのはソン・ガンホ)が、偶然ドイツ人記者を乗せて光州に向かったことで、軍による苛烈な弾圧を目の当たりにする...という筋立て。光州民主化運動が大韓民国でどのように記憶され、語られてきたか、わたくしはよく知らないが、2017年に公開されたこの映画は大ヒットを記録したというから、この映画もまた民主化運動の記憶と語りに大きな影響を与えたことは想像に難くない。

 映画としてはかなり真摯につくられたのだろうという感触があり、ほとんど戦場と化した光州の描写など相当の力が入っていると感じたし、粗野だが素朴な善性をもつタクシー運転手演じるソン・ガンホは余人に代えがたい魅力がある。一方で、これは同じく韓国のヒット映画である『国際市場で逢いましょう』や『弁護人』、『新感染半島』なんかもそうなんだけど、登場人物が類型的でかなり素朴な感情の発露をするのよね。

 『はちどり』のような繊細な機微を写し取った映画もあるわけだし、類型性を見事に道具として使った『パラサイト』のことを想起すれば、この映画だけをとりあげて韓国映画全体を語る愚は無論避けるべきなんだけれど...。そして結部のトーンが民主化運動そのものよりも一人のタクシー運転手の顕彰のような雰囲気をまとっていたことも気になった。

 さて、ちょうど中華人民共和国における天安門事件を扱った安田峰俊『八九六四』を読んでいる最中だったというのもあって、「軍隊が市民を銃撃する」ことのやばさを映像で改めて実感できたことは奇妙な偶然だった。しかし天安門事件の記憶がこうしたかたちで映像化され受容されることはしばらくはないだろうと思うと、この数十年の韓国社会の大きな変化が実感されもする。

 また、日本列島における1968年の運動も、こういう語りにはならないだろう。『マイ・バック・ページ』の極めてパーソナルな敗北への焦点化を想起すると。そういう意味ではおもしろくみました。

 

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