はい、というわけで2017年の総括という感じで。
2017年新作映画ベスト10
『ダンケルク』は、大文字の歴史に振り回され生きようともがく極めて泥臭い、いわば形而下の戦争をカメラに写し、同時に総力戦とは何か、という形而上の問い――それはすなわち、異なる時間と空間を一つの物語に編成してしまう力である――にも回答した傑作。美しい画、スリリングかつ緊張感ある音響と、映画としての吸引力が段違いだったと思います。
『ベイビー・ドライバー』と『ブレードランナー2049』は、不自由である我々の生をいかにして生きればよいのか、という共通の問いが根底にあると思います。前者はポップミュージックを縁に、現実に対して異なるリズムの流れる世界を立ち上げ、それを軽妙に称揚してみせた。後者はまがい物に囲まれまがい物の生を生き、使い捨てられる定めにある男――それは私たちの似姿であるように思われます――を通して、まがい物に宿るかもしれない意味のようなものをみせてくれたという気がします。『ブレードランナー』という作品自体に後追いでしか経験できず、いわば他人事のようにデッカードの物語と出会った世代の人間として、Kの立ち位置に共振するところ大でした。
『LOGAN/ローガン』は、これまで(たとえばマーベルの諸作品と比べると)順調とはいえない歴史を辿ってきたシリーズが、それゆえに語りえた一つの決着でした。コミック的なるものが無残に破られる現実(それはある人物の凄惨で無意味な死に託されているように思われます)に対して、それでもなおコミック的なもの、あるいは西部劇に仮託されたフィクションそれ自体を称揚する物語は、これまでのシリーズすべてを救ったように思います。
『ラ・ラ・ランド』は冒頭の多幸感あふれるミュージカルにやられてしまいました。
『劇場版 響け!ユーフォニアム〜届けたいメロディ〜』はテレビアニメの総集編ですが、エピソードの取捨選択が巧みで、見事に一本の映画になっていたように思います。とりわけ、メインのストーリーラインにそれほど関わらない、「ふつうの人」の挿話をしっかり拾い上げていたことに強い信頼感をおぼえました。
『新感染 ファイナル・エクスプレス』は、(おそらく)現代韓国にとってアクチュアルであり、同時に普遍的な寓話でもある物語を、極めてスリリングに語りきった作品だったように思います。
『沈黙 -サイレンス-』は、原作におけるロドリゴの語りによって貶められていたキチジローを、カメラと窪塚洋介の演技が救い出していたことが強く記憶に残っています。
『夜明け告げるルーのうた』は、いまだに自分のなかでこの作品を語る言葉を見つけられずにいます。その理由のひとつは、僕が東日本大震災をどう語っていいのかわからないからだろうと思います。昨年から、ポスト震災映画とでもいうべき作品群が次々公開されているように思いますが、そのなかでも突出して不気味であり、かつ直接的に「波にさらわれる街」を描いたこと、そのことは強く心にひっかかりました。
『傷物語〈III 冷血篇〉』は、度重なる延期によって、時代と共振した作品になってしまった、そういう映画だと思います。吸血鬼を近代のメタファーと見立て、黒船来航からいま・ここに至る日本近現代史のピークをかつての東京オリンピックに託し、そこで人間と近代とが血みどろの格闘を演じる。三部作になったことで冗長になり緊張感を欠いた場面もありますが、東京オリンピックのイメージが過去と未来とに分裂しているいまだからこそ、語ることのできる物語を語ったなと思います。
ベスト10には入れられませんでしたが、『最後のジェダイ』は非常に好きです。
自宅視聴映画ベスト10
- 『エリート・スクワッド ブラジル特殊部隊BOPE』
- 『クリーピー 偽りの隣人』
- 『国際市場で逢いましょう』
- 『コングレス未来学会議』
- 『セデック・バレ』
- 『オールド・ボーイ』
- 『複製された男』
- 『残穢』
- 『パンチドランク・ラブ』
- 『ドライヴ』
2017年にみた映画まとめ
- 『傷物語〈III 冷血篇〉』
- 『オアシス:スーパーソニック』
- 『マッドマックス 怒りのデス・ロード ブラック&クロームエディション』
- 『沈黙 -サイレンス-』
- 『シン・ゴジラ』(4回目)
- 『ドクター・ストレンジ』
- 『MERU/メルー』
- 『虐殺器官』
- 『ラ・ラ・ランド』
- 『ひるね姫 〜知らないワタシの物語〜』
- 『ムーンライト』
『キングコング: 髑髏島の巨神』 - 『夜は短し歩けよ乙女』
- 『ゴースト・イン・ザ・シェル』
- 『夜明け告げるルーのうた』
- 『メッセージ』
- 『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー: リミックス』
- 『LOGAN/ローガン』
- 『ハクソー・リッジ』
- 『メアリと魔女の花』
- 『劇場版ポケットモンスター キミにきめた!』
- 『スパイダーマン:ホームカミング』
- 『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』
- 『ワンダーウーマン』
- 『きみの声をとどけたい』
- 『ダンケルク』
- 『ベイビー・ドライバー』
- 『新感染 ファイナル・エクスプレス』
- 『散歩する侵略者』
- 『三度目の殺人』
- 『劇場版 響け!ユーフォニアム〜届けたいメロディ〜』
- 『アウトレイジ 最終章』
- 『Fate/stay night [Heaven's Feel] I.presage flower』
- 『ブレードランナー 2049』
- 『氷菓』
- 『アトミック・ブロンド』
- 『ジャスティス・リーグ』
- 『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』
- 『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』
- 『エンドレス・ポエトリー』
- 『ガールズ&パンツァー 最終章』第1話
初見は40本。
自宅視聴まとめ
- 『イコライザー』
- 『X-ミッション』
- 『ブラックハット』
- 『劇場版ポケットモンスター 結晶塔の帝王 ENTEI』
- 『劇場版ポケットモンスター セレビィ 時を超えた遭遇』
- 『ラスト・サムライ』
- 『ジョン・ウィック』
- 『プレミアム・ラッシュ』
- 『GANTZ:O』
- 『アース・トゥ・エコー』
- 『劇場版 闇金ウシジマくん』
- 『悪の教典』
- 『天空の蜂』
- 『新宿スワン』
- 『残穢』
- 『塔の上のラプンツェル』
- 『雨に唄えば』
- 『劇場版 闇金ウシジマくん2』
- 『麒麟の翼』
- 『マイティ・ソー』
- 『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』
- 『エリート・スクワッド』
- 『エリート・スクワッド ブラジル特殊部隊BOPE』
- 『オールド・ボーイ』
- 『国際市場で逢いましょう』
- 『フォックスキャッチャー』
- 『貞子vs伽倻子』
- 『セデック・バレ』
- 『るろうに剣心 京都大火編』
『るろうに剣心 伝説の最期編』 - 『BLAME!』
- 『ドライヴ』
- 『清洲会議』
- 『劇場版HUNTER×HUNTER 緋色の幻影』
- 『イット・フォローズ』
- 『J・エドガー』
- 『ジェイソン・ボーン』
- 『パンチドランク・ラブ』
- 『スター・トレック BEYOND』
- 『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』
- 『困ったときのロジャー・ストーン』
- 『戦場でワルツを』
- 『コングレス未来学会議』
- 『複製された男』
- 『テラフォーマーズ』
- 『新宿スワン2』
- 『クリーピー 偽りの隣人』
47本。
2017年に視聴したTVアニメまとめ
- 『BLACK LAGOON』
- 『Fate/stay night [Unlimited Blade Works]』
- 『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』
- 『響け!ユーフォニアム2』
- 『龍の歯医者』
- 『91Days』
- 『ソードアート・オンライン』
- 『コンクリート・レボルティオ〜超人幻想〜THE LAST SONG』
- 『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。続』
- 『けものフレンズ』
- 『OVERMANキングゲイナー』
それと個人誌を今年も出しました。
読んだ本まとめ
今年の10冊
- プルースト『失われた時を求めて』
- 牧野智和『日常に侵入する自己啓発: 生き方・手帳術・片づけ』
- 米澤穂信『いまさら翼といわれても』
- エーコ『薔薇の名前』
- 小川哲『ゲームの王国』
- 野崎まど『[映] アムリタ』
- 江波光則『我もまたアルカディアにあり』
- アレクシエーヴィチ『セカンドハンドの時代』
- カズオ・イシグロ『忘れられた巨人』
- 増田俊也『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったか』
読書メーターさんによると
読んだ本の数:292冊
読んだページ数:84064
だったようです。
月ごとのまとめ